文房 夢類
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壺猫

文房 夢類
November 2011

ゆさぶりをかける

揺さぶりをかける、とは、人間同士の場合、何をするのだろうか。相手の肩をつかんで、ゆさぶる。これが原点かもしれないが、脅しをかけるとか、相手を動揺させることをいう。
私は、こうした行為をサルから受けたことがある。2度もある。はじめの時は、西丹沢の山の中、山奥ではなくて人家との境界に立つ送電線のための鉄塔付近で、数匹のサルの群を見つけたときだ。私は、サルだ、と言って近寄って行ったら、群は逃げ出した。が、なかのいちばん大きなサルだけは逃げなかった。群が無事に逃げたのを見送ると、この大サルは、鉄塔の周囲に張り巡らせた金網に四つ足でつかまり、思いっきり揺さぶったのだ。真っ赤な顔で私を見ながら、揺さぶっている。その様子は、どうだ、オレさまはこんなに力持ちなんだぞ、恐れ入ったか! と言っているように見えた。わかったわよ、と言って私は近寄るのを止めた。
2度目は越後湯沢の土樽だった。畑の向こうが山で、山と畑は、わずかなススキの原でつながっていた。この畑に十数匹のサルがでていた。子ザルも2、3いる。私は、ここにサルが出ることを知っていたので、車中から望遠カメラを構えていた。期待以上に大勢出てきたので、私は車を出て、もっと近くに寄ろうと移動し始めたら、すぐに察知した群は、素早い動きで吸い込まれるように山に入ってしまった。残念。もっと寄りたかったなあ。ところが、大ザルだけは逃げなかった。この大ザルもまた、家族全員が山に入ったのを見届けるやいなや、山裾の1本の木につかまり、思いっきり揺さぶり出したのだ。私を見ながら揺さぶっている。あはは、怖くないわよ。と私は笑い、なおも近寄って行ったら山の暗がりへ飛び込んでしまった。サル心にも、揺さぶったら人間が動揺して逃げ出すんじゃないかと思ったに違いない。
この秋のこと、自宅の駐車場の隅にクモが巣を作った。次第に大きくなったクモは、黒と黄のまだらのジョロウグモである。見事な巣を張り、その中心に足を広げて陣取っている。私は、このジョロウグモの胴体を突ついてみた。ビックリして巣の中心から、端の隠れ家へ逃げ出すだろう。隠れ家を突き止めてみたい、それだけの理由で突ついたのである。するとジョロウグモは、意外な事に一歩も退かず、いきなり巣を揺さぶり出したのだ。揺れる、揺れる。中心にいるジョロウグモも前後に激しく揺れている。揺さぶる様子は、どうだっ 驚いたか! 怖いだろう! オレ様は、こんなに力が強いんだぞ、と言っているように見えた。クモがゆさぶりをかけるなんて、まさかといぶかり、何度も試したが、真剣にやっているのだった。
こうなってみると、ヒトもサルもジョロウグモも似たり寄ったりという生き物に見えてくる。

生きている水

3.11以来、水道水を飲まず、自然水を汲んで使っている。山地の多い日本列島は、無数に湧き水があるが、都会の人間は、自分だけが知っているという穴場を持たないから、どうしても人の集まる水場へ行くことになる。私は4カ所を、その都度変えながら回って水を汲んでいる。そのうちの2カ所が深層水で、あとの2カ所は表層水だ。水汲みの人たちは、タンクに1個2個とかペットボトル数本というのならかわいいものだが、タンクを10個、20個、などというのはザラである。ペットボトルも、6本入れたダンボール箱を10箱20箱と持ってきて水場を独占するから行列ができる。大家族なのか、レストランか、売るのか。私にはわからない。ともかく私も水を汲んで持ち帰り、流しの脇に置いたタンクに入れて使ってきた。ところが、ふと見て息が止まった。タンクの内側が薄緑色なのだ。洗って入れ替えているのに。苦労して汲んできた水だと思うから大切にして、何日も使うのが問題なんだと思った。自然水をそのままポリタンクやペットボトルに閉じ込めたから、死んでしまったんだと感じた。市販の水は加工されている水だから自然水ではない。湧き水も地下水も、川の流れも常に動いている、生きている。日本の豊かな水は軟水で、美味しい水、生きている水なんだと、あらためて思った。

耳よりの話

最近、難聴故に耳の本をよく読む。そのなかに書いてあったことだが、補聴器は両耳に装着するのが望ましい、その理由は、片耳につけていても充分聞こえる、しかし、補聴器をつけた側の耳だけに頼ってしまい、つけていない方の耳は、休んでしまうのだそうだ。ワタシは働かなくてもいいわけね、となるらしい。さて、こうして暮らしているうちに、なんと補聴器をつけていない方の耳は完全に聞こえなくなってしまうそうだ。恐ろしい。このような退化現象は、すこし入院した経験のある方なら、強くうなづかれることと思う。
歯も、たとえば下の歯がなくなった場合、すぐに部分入歯をつけることが大事で、ないままにしておくと、噛み合わせる上の歯が、徐々に伸びてくる。伸びる、という表現より、落ちてくると言うべきだろう。恐ろしい。
洞窟に棲む魚が、目が退化して目のない魚になっている。水族館で眺めて、へええ、と感心している私だが、サカナ事ではない、自分の持つ各所を始終使いこなさなければならないと痛感する。

二度あることは三度

二度あることは三度ある。三たび目のマイクロチップ。無理に三度目を作ったわけではなく、偶々今日、映画「トワイライトゾーン」のDVDを観ていたら、予期せぬ所に現れたのだ。
この映画は1982年製作,翌年公開された4編の連作。原作は、アメリカで1959〜64年に放映されたSFTVドラマシリーズ。とても人気があって日本でも「ミステリーゾーン」のタイトルで放映された。
このなかの第4話「 NIGHTMARE AT 20,000 FEET」にマイクロチップが出てきた。嵐の夜、飛行機に乗っている乗客のひとりが、翼に怪物を見る。信じない乗員、乗客。このとき、パニックになっている「見た男」の気を紛らわせようとして客室乗務員がいう、お客さん、なんという本をお読みなんですか。パニックの男は答えて、あ、これは「マイクロチップの未来」って本です。客室乗務員は微笑して、「まあ、お客さん、SFがお好きなんですね」。
SF世界の夢物語を好んで読む人物像を強調するための小道具として現れたマイクロチップの本である。このときから何年経っただろう。
いま、マイクロチップは非常に大切な場面で活躍し、さらに多方面で期待を寄せられている。SFではなくなった現在を思うと感動せずにいられない。どれほど多くの基礎研究者たちが、努力してきたことだろう。
今回、DSファーマ株式会社は、マイクロチップの欠陥商品の割合が15%だ、と公表した。これは異常に高い割合だと思う。これを、9月に「製品の中の一部に欠陥がみられ」たと軽くいなして、それっきり、いまもって解決の方向さえも見せないのは、この半世紀、SF世界にいたマイクロチップを現実の世界に持ってきて、役に立つよう努力を重ねてきた多くの人々に対して、申しわけが立たないと思う。

ふたたびマイクロチップ

サイの密猟について読んだ。TIME (タイム・アメリカのニュース情報誌)VOL177,NO24 2011号に出ていた。年々その数を減らしているサイを密猟するのは誰か。そして何故か。それは漢方薬として角が売れるからだという。そこで保護するレンジャーがヘリコプターで、サイを探し出して捕獲し、角の中にマイクロチップを埋め込む運動をしているという記事だった。無惨に殺されて角だけを持ち去り放置された大きなサイの死骸。その写真は目を覆うばかりだ。一緒に写っているレンジャーの人の様子からも、その衝撃と悲憤の感情が伝わってくる。こうしたことを少しでも防ぐために、マイクロチップが追跡の手段となって密猟が「絶滅」されることを強く願う。
先日来、マイクロチップが動物の体内で破損し、データが読み取れなくなり、チップのガラスにひびが入った(割れた)事故を起こした
DSファーマアニマルヘルス社のことを、読みながら考えた。同社がホームページに出したメッセージ「不具合な品が出ました。動物の体内に与える影響があるにしても、その影響は極めて少ない云々」という、いい加減、無責任な姿勢で製品を作られてはたまったものではない。
影響はある、しかしいまのところたいしたことはないという欺瞞語を、私たちは福島原発事故でさんざん聞かされたのだ。マイクロチップはさまざまな場面で動物の命を守る役目を担っている。事業を行う人々は、利潤よりも先に、土台として持つべき精神を忘れてはいけない。東電の人々も保安院の人々も、そしてDSファーマの人々も、人として持つべき根本精神を忘れたというより、最初から持たないために、言を左右に、あいまいな欺瞞語で切り抜けようと謀るのだ。このような腐蝕した魂の日本人が繁殖すると、早晩日本はダメになる。
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