文房 夢類
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壺猫

文房 夢類

ゆさぶりをかける

揺さぶりをかける、とは、人間同士の場合、何をするのだろうか。相手の肩をつかんで、ゆさぶる。これが原点かもしれないが、脅しをかけるとか、相手を動揺させることをいう。
私は、こうした行為をサルから受けたことがある。2度もある。はじめの時は、西丹沢の山の中、山奥ではなくて人家との境界に立つ送電線のための鉄塔付近で、数匹のサルの群を見つけたときだ。私は、サルだ、と言って近寄って行ったら、群は逃げ出した。が、なかのいちばん大きなサルだけは逃げなかった。群が無事に逃げたのを見送ると、この大サルは、鉄塔の周囲に張り巡らせた金網に四つ足でつかまり、思いっきり揺さぶったのだ。真っ赤な顔で私を見ながら、揺さぶっている。その様子は、どうだ、オレさまはこんなに力持ちなんだぞ、恐れ入ったか! と言っているように見えた。わかったわよ、と言って私は近寄るのを止めた。
2度目は越後湯沢の土樽だった。畑の向こうが山で、山と畑は、わずかなススキの原でつながっていた。この畑に十数匹のサルがでていた。子ザルも2、3いる。私は、ここにサルが出ることを知っていたので、車中から望遠カメラを構えていた。期待以上に大勢出てきたので、私は車を出て、もっと近くに寄ろうと移動し始めたら、すぐに察知した群は、素早い動きで吸い込まれるように山に入ってしまった。残念。もっと寄りたかったなあ。ところが、大ザルだけは逃げなかった。この大ザルもまた、家族全員が山に入ったのを見届けるやいなや、山裾の1本の木につかまり、思いっきり揺さぶり出したのだ。私を見ながら揺さぶっている。あはは、怖くないわよ。と私は笑い、なおも近寄って行ったら山の暗がりへ飛び込んでしまった。サル心にも、揺さぶったら人間が動揺して逃げ出すんじゃないかと思ったに違いない。
この秋のこと、自宅の駐車場の隅にクモが巣を作った。次第に大きくなったクモは、黒と黄のまだらのジョロウグモである。見事な巣を張り、その中心に足を広げて陣取っている。私は、このジョロウグモの胴体を突ついてみた。ビックリして巣の中心から、端の隠れ家へ逃げ出すだろう。隠れ家を突き止めてみたい、それだけの理由で突ついたのである。するとジョロウグモは、意外な事に一歩も退かず、いきなり巣を揺さぶり出したのだ。揺れる、揺れる。中心にいるジョロウグモも前後に激しく揺れている。揺さぶる様子は、どうだっ 驚いたか! 怖いだろう! オレ様は、こんなに力が強いんだぞ、と言っているように見えた。クモがゆさぶりをかけるなんて、まさかといぶかり、何度も試したが、真剣にやっているのだった。
こうなってみると、ヒトもサルもジョロウグモも似たり寄ったりという生き物に見えてくる。
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