文房 夢類
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壺猫

文房 夢類
November 2013

テレビの進歩とマンネリ

これでも私は,多少のテレビを見物している。そのひとつに「お宝鑑定」がある。書画骨董、おもちゃ、なんでもござれである。自分の所有する宝物を披露、専門家が鑑定して値段をつけるという番組で人気がある。当初は、持ち主が単純に希望価格を言い、鑑定結果を出して貰っていた。結果が予想以上だと大喜び、案に相違して二束三文だと笑いが起きる。これが進歩して所有者に物語がつけられるようになった。たとえば親の形見だとか、借金のカタに貰い受けた焼き物だ、といった具合である。最近は、これがさらに進歩してきた。所有者が妻に内緒で,高額で購入した。もし千万円の宝であれば顔が立つ、という。客席にいる妻が、せいぜい三千円だと笑う。こうしたバトルを作り、ドラマにして見せるようになった。常に工夫を懲らして努力している長寿番組である。一方、超マンネリと言われる長寿番組がある。日曜の夕方、たった15分間の「笑点」という、落語家が座布団に座って並び、出されるお題に落語家らしい機知に富んだ答えをするもの。答え如何により座布団を貰ったり,持ち去られたりする遊びが一般に知られている。こちらは何一つ新しい仕掛けをしようとしない、いつも同じである。これがマンネリと言われる所以だが、人気抜群、これから先も続くだろう。どこがよいのだろう。それは視聴者に笑いをくれる、つまり視聴者を笑わせることをしてくれているのだ。当たり前に思うかもしれないが、昨今のどの番組を見ても、ニュースでさえも、この基本がない。出演している本人たちが、面白がって笑っているのだ。芸人だけでなくアナウンサーたちも、ひどいものだ。自分たちの茶のみ話の笑い方を、そのままやっていて気がつかない。そりゃ、あんたがたは面白いでしょう、でもこっちは白けてるんだよ、と視聴者がテレビをオフにしても、たぶん、スタジオで笑い転げているのだろう。「笑点」の落語家たちは、楽しそうな笑顔で芸を披露してくれているが、笑っているのではない。客に笑いを届けるという基本座布団から動くことはない。マンネリではない、立派な人たちだ。

「別れのワイン」を思い出す

九条ネギと芝エビ事件から刑事コロンボ「別れのワイン」を思い出した。これはコロンボのシリーズの中でも屈指の上質な作品として有名な作品。ワイナリー経営者エイドリアン役のドナルド・プレザンスは,英国空軍で爆撃機に乗っていた人、ドイツ軍の捕虜にもなった劇的な半生の後に、演劇に復帰した。「大脱走」では身分証明書偽造の職人芸をみせる役をやっているが、なんとも見応えのある演技をする。秘書カレン役のジュリー・ハリスは、「エデンの東」でジェームズ・ディーンの恋人役で知られた女優さんで、24歳のディーンを相手に30歳のハリスは見事だった。「別れのワイン」で、具体的な状況証拠がないなかで、犯人、エイドリアンが自白してしまう根本原因が、カレンに強要された結婚に恐怖を感じて、刑務所行きを選んだというところにあるので、秘書カレンが、このストーリーの結末を納得に持ってゆくために重要な役割を担っていた。この女にこの先死ぬまで束縛されるのか、という恐怖。この恐怖を表現したジュリー・ハリスの演技が素晴らしい。
それはさておき、エイドリアンが、ワイナリーのワインが高温でやられてしまったことに気がつくシーンでは、コロンボが注文したワインが「フェレイラのヴィンテージ・ポート、45年」というとびきりの高級品であったが、品質の劣化に気づいたのは、ほかならぬ経営者エイドリアンだった。コロンボは、エイドリアンとワインに対して、最初から最後まで敬意を持っている、それも伝わってきた。こうしたすべての複合体が名作を生んだ。
ホテルたちの偽装の数々は、経営者が発見したものではなかった。それどころか、我と我が身を偽り、承知の上で偽装をしている経営者も多々あった。料理人に転化する者あり、解釈の違いにすり替える者もでた。もしかすると、新メニュー発表の際に、経営者も試食をしていたのかもしれない。そして何ネギだか何エビだか、社長にも違いが分からなかったのかもしれない。名前だけ立派にすれば、馬子にも衣装、高額でいけると決めたのかもしれない。この話題のあとに、さっそくスーパーに九条ネギコーナーができたので見物した。なんのことはない京都のネギのことだった。関西は葉ネギで、葉の部分が柔らかく、これを大切にする。バカバカしい限りだ。
もともと、ブランドと高額ぶりをありがたがる有象無象が、喜んで消費してきたのだから、どっちもどっちの結果と言えないだろうか。

偽装

世間の動きに上の空でいたあいだに、大事な法案やホテルの料理の表示がおかしいなど、いろいろあった。最初、私が気がついたのは、九条ネギと表示していながら、似たような別のネギを提供していたというものだった。これは有名なホテルでの出来事で、なぜ発覚したかというと内部告発だったと言われる。その後、芋づる式に発覚が続いていて,このドミノ倒しのような現象は終わりがなさそうだ。上はホテルの高級レストラン、下は底なし。乾燥わかめを買い,水で戻したら黒色ビニールだった、というのは,どこの国の話でしょう。黒ビニールだったら、だれも口に入れないから,むしろお笑いぐさで済むけれど、2年半前から深刻に案じているのが、放射能の影響を避けられないのではないか、という深刻な偽装危惧である。九条ネギに苦情を述べ立てているレベルだったら冷笑ものだが、何度も繰り返しになるが、放射能の測定値は薄めれば低くなるのだ。まず外食産業が汚染される。つぎに一般消費者の買う小売り業界が汚染される。最近の小売りの表示が変わってきたことも、悪い予感を呼ぶ。たとえばイオンなどスーパーや生協の売る野菜の生産地表示が変わってきた。避けたい地方と、選びたい地方を並列に表示している。手にとって産地を確かめることのできる店頭ならば選べるが、生協のようにカタログで注文する場合は、複数広域の産地表示では、表示自体が無意味だと思う。芝エビが何エビだったとしてもどうでもないが、実害のある偽装が国家戦略としてまかり通っているのが現状だと思う。
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