文房 夢類
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壺猫

文房 夢類
August 2011

新浴衣

山中湖平野天神祭と報湖祭、花火大会と続けてお祭りを見物した。賑わう屋台、集まり流れる人の波を見物するのも、祭りの大きな楽しみである。
天神祭では、山車を引く子たちがいちばん年少で、神輿は小学生が担いでいた。この山車を引く子たちの中に、また傍で眺める子たちの中に、浴衣姿が目立った。私の目は、この幼児たちの浴衣に引き寄せられた。
白地に花柄、水色地に花、可愛らしい浴衣。思わず見つめたのは、浴衣の裾まわりで、裾にレースがつけてあるのだ。浴衣の裾にレースとは。そう思いながらさらに見ると、袖口にも白いレースがついている。浴衣にレースって、驚きだわ。だれが思いついたのかしら、と見ていたら、なんと幼児の浴衣の裾は膝上の長さで、しかもギャザースカート風に仕立てられていた。下はスカート、上は浴衣だ。
報湖祭でも、ギャザースカート浴衣の孫の手を引く爺様、婆様を見つけた。
年頃の娘さんたちを眺める。意気揚々と胸を張った心地の男の子とふたり、浜辺を歩く。屋台の前でこうした二人連れ同士が笑いさざめく。可愛らしい髪飾り、薄茶に染めた髪、イヤリングとブレス。すらりと伸びた姿態は細く、まるで若鹿のようだ。湖を渡る風が、宵から夜へと進むに連れて強くなった。裾の乱れを片手で押さえて歩く娘。それは美人画の世界だ、見物できる浴衣姿の女の子たちは、吹かれるままに裾をなびかせる。寒くなっても平気、前もってタイツをはいている。ブーツ、スニーカで危なげなく浜砂を踏む。

女心

福島原発.......福1と略称が生まれた、この大事故について、8月6日原爆の日には、とくに思いが押し寄せて、式典の実況とともに1時間を過ごした。これから先、ますます福1が出てくるに違いない、今回はそれは置いておいて、昔の思い出を記す気になった。昔の「思い出」「女心」とでたら、このあとに来るのは「恋」。そう思うでせう。残念でした。はずれ、です。
ライターとしてプロダクションで仕事をしていた時代のこと、プロデューサーに取材に行ってこいと言われた。場所は新宿歌舞伎町、時は深夜。TVドラマ作りとは畑違いの方面の小説書きの男性に白羽の矢を立てたが、即座に同行を断られた。もうひとり、似たような男性を誘ったが、はっきり逃げられてしまった。軟弱な者どもである。単独で出かけたが、もともと生まれた地域から近い繁華街という認識なので気楽である。たいていの場所は歩き回った路地である。が、いつ何が起きてもおかしくない緊迫した空気が漲る澱みが見え、猥雑であり、きわめて美しいシーンもあるのだった。そして地方から物珍しげに訪れた男たちにとっては、そのような色合いは片鱗も見えずただ、金を出せば楽しめる明るい入り口が無数に開いている世界である。見せてよ、と私は言った、キップ売りの男は答えた、止めてやってね。男になら見せるよ、でも女にって、辛いんだよね。これだけ言ってもらえば充分だった。私は反省し、学んだ。痛々しい女心に触れた。キップ売りの男の心も、優しかった。みんなが、すべてを承知していた。承知しながら、生きなければならないことも分かっていた。私の心が抱きしめる女心、そして深夜の歌舞伎町。

女人禁制

高野山へ参拝した折りのこと、案内してくれていたお坊様が、女の方はここまででして、と会釈されて奥へ進んで行かれたことがあった。高野山は女性にも開かれたが、細かい部分では、今でも女性が足を踏み入れてはならぬ、という場がはっきりとある。仏教系、神道系、修験者系のそれぞれに女人禁制の場はあり、広く知られている場には相撲がある。土俵に女を入れない。以前、女性の大臣が土俵にあがると主張して話題になり、騒ぎにもなったが、その後どうなったのだろう。男女差はあるべきではない、どのような職業でも性別に関係なく進めるのが自然だし、当然という考え方は、大歓迎の大賛成、拍手喝采だ。しかし従来ある女人禁制の場については、私は現状維持に賛成である。お相撲の土俵に上がる、上がらせたくない、という押し相撲は、すべきではない。高野山の奥の院のその奥なども、女はここまで、と言われたら引き下がるのがよい。このことについて、私は不満はない。なぜ女人禁制としているか、その歴史を丁寧に示してひとつの伝統的風習として伝え、存続させて行くことは、あながち悪くないんじゃないか、という考えを持っている。この先、新しい女人禁制の場が作られることはないだろう。せいぜい、女性専用車両という、男子禁制の場は増えるかもしれないが。だから、あの土俵に上がることにこだわった人について私は、度量が狭いなあ、絶対作らねばならぬ、絶対守らねばならぬ職業の自由と伝統的風習を混同することはないんじゃない、と思っている。
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