文房 夢類
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壺猫

文房 夢類

お待たせしました

最近は、ATM(現金自動預払機)をよく利用するようになった。銀行では相当数のATMを用意しているが、三等郵便局では一つあるだけだ。歩いて行かれる近くの郵便局のATMが使いやすいので、時に行列ができる。終わってATMを離れるときに、私は次の人に「お待たせしました」と言う。ちょっと会釈するくらいの軽い感じで言う。小さいときから親のすることを見てきている、自然な仕草の一つと思ってきた。同じような自然な仕草は雨の日の傘にもある。細い道で傘をさした者同士がすれ違うときに、傘を反対側に傾けるのだ。
ところが「お待たせしました」と言う人がいない。出会ったことがないことに気付いた。いつからだろう、皆、知らん顔をして去って行く。傘も知らん顔だ。余程困った人は、グイッと腕を上げて、傘を一段高くして通り過ぎる。日傘の女、男の日傘を見たことがないので、女だが、これがいちばん悪質だ。傘をささない周囲の人に目もくれず、信号待ちでも、雑踏でも傘をさし続ける。
こうしたことに気付いてからしばらくの間、近頃はかわったんだ、イヤだなあ、と思っていた。最近は自分の方が変化して、そうだ、若いもんがしないから、自分もやめてしまうのではなくて「お待たせしました」を続けようと決めた。町の年寄りがすることを見てたから、と覚えていて、私くらいの年になったときに真似する人が生まれるかもしれない。

パリ新聞社襲撃事件

フランスの政治週刊誌「シャルリ・エプド」銃撃事件が、世界中の注目を集めている。1月11日にパリ中心部で開かれた反テロ集会に大勢の群衆が集まり、これまでに抗議デモに参加した人数は約370万人を超えた。これはフランス史上最大規模の抗議活動であると報じられている。イギリス、ドイツ、スペイン、イスラエル、パレスチナなど各国の首脳も参加していて、並んで腕を組んでいる写真も出た。群衆の中にはペンを持つ者、髪につけている者もみえて、テロに対する怒りと抗議が満ちあふれている。世界中が、これほど真剣になるのは、言論の自由を守りたいからにほかならない。言論・表現の自由を守る事は、いまの日本にとっても大きな関心事だ。他人事ではない。群衆の中に日本人はいたのだろうか。パリ在住の日本人は参加してくれたのだろうか。日本国内でも、もちろん各人の感想はあるだろう。遠くからでもよい、そうだ、そのとおりだと声を上げたい。私は、ペンクラブがいつ、どういう発言をするか注目している。
しかし日本の報道は、たとえば飛行機事故が起きたときなどには、事実の報道に加えて素早く、そのなかに「日本人はいませんでした」と言う。今回は「日本人はいませんでした」とも「いました」とも報道しない。言論の自由を暴力で脅かすことは、世界中の人々の関わる問題だから、他人事のような報道の仕方は逆に目立っている。
日本にデモがないか。あるのだが、まず余程のことでないと報道しない。デモによる抗議の内容、意志を、日本中に知らせたくないから沈黙している。隠しているな、と抗議されれば、紙面がない、時間がないと言い訳も見えている。自主規制、自粛という考え方は、際限もなく萎縮する方向へ落ち込んでゆく。臆病な態度だと思う。恥ずかしい事である。
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