文房 夢類
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壺猫

文房 夢類

お待たせしました

最近は、ATM(現金自動預払機)をよく利用するようになった。銀行では相当数のATMを用意しているが、三等郵便局では一つあるだけだ。歩いて行かれる近くの郵便局のATMが使いやすいので、時に行列ができる。終わってATMを離れるときに、私は次の人に「お待たせしました」と言う。ちょっと会釈するくらいの軽い感じで言う。小さいときから親のすることを見てきている、自然な仕草の一つと思ってきた。同じような自然な仕草は雨の日の傘にもある。細い道で傘をさした者同士がすれ違うときに、傘を反対側に傾けるのだ。
ところが「お待たせしました」と言う人がいない。出会ったことがないことに気付いた。いつからだろう、皆、知らん顔をして去って行く。傘も知らん顔だ。余程困った人は、グイッと腕を上げて、傘を一段高くして通り過ぎる。日傘の女、男の日傘を見たことがないので、女だが、これがいちばん悪質だ。傘をささない周囲の人に目もくれず、信号待ちでも、雑踏でも傘をさし続ける。
こうしたことに気付いてからしばらくの間、近頃はかわったんだ、イヤだなあ、と思っていた。最近は自分の方が変化して、そうだ、若いもんがしないから、自分もやめてしまうのではなくて「お待たせしました」を続けようと決めた。町の年寄りがすることを見てたから、と覚えていて、私くらいの年になったときに真似する人が生まれるかもしれない。
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