文房 夢類
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壺猫

文房 夢類

歌と踊り

歌と踊りは人間の営みの根源と思う。岩戸の前で踊るウズメ。ジャマイカでは市井の人々が毎晩のようにダンスを楽しんでいるが、ついこの間までの歌と踊りは奴隷化された人たちの命綱だった。昔、ニューヨークに住んでいたときは、隣家が毎週末にダンスパーティだった。歌が魂を慰め、踊りが命を庇う。私はジャマイカで、足が使えなくても踊れることを知り、声が上手く出なくても歌えることを学んだ。言葉が生まれる以前の人類から受け継いできた拍動と旋律は、いまもすべての人の肉体に宿るのだ。
 昨年末に加島祥造さんが亡くなられた。「荒地」の詩人。亡くなられたが彼の詩句は生きている。手元にあるフォークナーの『八月の光』の訳が加島祥造さん。おなじ「荒地」の田村隆一さんの訳本も、彼の詩集と共に書架にある。詩人の訳したものは、小説であれ童話であれ日本語が美しい。小説を書く人でも、詩から入った人の言葉には愛情が籠もっている。言葉に対する敬意と愛が伝わってくる。そして思うのだが詩人はいつも心が踊っている故に、しかも時空を超える術を体得している故に、無限大の言葉のダンスに興じることができるのだ。このような詩人たちの言葉に添うて生きる私は幸せだ。
 年末年始にかけて、カウントダウンのバレエ、シルヴィ・ギエムの「ボレロ」をTVで観た。バレエに詳しい友人から教えて貰って観たのだが、深紅の円盤の上で踊る女性は、ウズメと自然に重なった。身体一杯の感動だった。ウズメはギエムのように面(おもて)を上げて堂々としていただろうと思った。
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