文房 夢類
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壺猫

文房 夢類

都知事選

都知事選の争点を原発問題に置くことの不当性を主張しているのが現内閣である。発言した閣僚たちの名前を挙げて個別に批判するつもりはない。内容だけを取り上げると「(核施設)設置自治体でもないのに争点にするのは不当だ」と言った人がいた。
あなたは、ほんとにそう思っているの? と私は心の中で言った。新潟県の山奥をドライブしていたときのことだ、一車線分がかろうじて舗装されている農道の行く手が工事中の柵で塞がれていた。さてどうしよう。脇のジャリ場に停めて散歩。ようやく家回りで雑用をしている老夫婦を見つけた。
目的は迂回路を教えて貰うことなのだが、前置きの挨拶から雑談へ入ってしまった。
ほれ、見て見ろ。と老夫が私の目を見た。見回す私の目には、重なり連なるおだやかそうな山々と、目の前の一軒家。手前に里芋畑。今朝から走ってきた山道の、どこにでもある風景であり、特別にワシ、タカが飛んでいるわけでもなかった。なにかしら、と私は奥さんに言いかけたが老妻は、聞こえないのか土間の奥に消えた。あれだよ。と老夫が空を指した。そこには細く黒い筋が見えた。高圧線だった。山から山へ、そして次の山へ。高圧線が伸びている。
あれを使うのは東京だよ。あれは、東京のためにやってんだよ。老夫は、また私の目をのぞき込んで言った。
それから老夫と私は話し込んだ。んだからよ、おめえ。と彼は言う。んだなあ。と私は頷く。わたしたちは、わたしたちなんだ、と噛みしめながら話し合った。電力のこと、暮らしのこと、高圧線の鉄塔を設置する工事は地元の男たちが請けたこと、彼らの得た収入。里芋だけから現金が入る”おれんとこ”のこと。新聞を購読しなくて上々、テレビで上々。しかし察知力、推測力、判断力は、なまじの文字情報からは得られない根深さがある。
政治に携わる人たちは、根無し草が多いような気がする。そして東京人には、根無し草が多いとも感じている。東京の人口の中で、いずれ郷里に帰る人、郷里から出てきたばかりの人、親の代に東京に住み着いた程度の、浅い東京人などが、いったいどのくらい含まれているだろうか。彼らは東京を味わってはいるが、東京を愛しているわけではない。東京を守ろうともしていない。いっとき、東京ファッションを楽しむくらいの軽さで、東京の場所を占めているに過ぎない。
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