文房 夢類
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壺猫

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平櫛田中彫刻美術館

平櫛田中という彫刻家について、伝え聞いたエピソードがあります。それは、高齢になってから、この先彫刻するための木材を庭先で乾燥させていた、乾燥するには何年もかかるというのに、高齢になってからやっていた、という話です。人間の生き方の根本に触れる行為なので、時々思い出します。
時の拍子で、小平市に美術館があると知り、知ってしまったら落ち着かなくなり、秋雨の合間に傘を持ち、さしたり杖に突いたりを繰り返しつつ出かけました。
はじめ、小平市平櫛田中館として旧宅を公開したのち展示館を新築し、今は2館併設の形になっています。
私が気にしている彫刻用材は、直径2、30センチのものと想像していたし、すでにエピソードだけで形はないであろうと思い込んでいたのですが、ビックリ仰天、大外れ。あったのです。
それは、3人がかりで囲んでも足りないほどの太さの楠の巨木で、書院造りの旧居宅の庭先に置いてありました。
台石の上に直立させて、上を屋根で覆ってあり、それはまるで編傘を被った巨人でした。
当館の内容については非常に良くできたホームページがあり、写真も豊富に出ていますので、ぜひご覧ください。
当地に書院造りの居宅を建てて移り住んだのが98歳の時のことだそうで、100歳の時に20年後の制作のために九州から原木を取り寄せたと、説明を読んで知りました。
時を知り、それを計ることのできる人間であることを自覚しながら、志を大きく高く、長く持ち続けて、しかも実行しながら107歳を生きとおした偉人であります。と、同時に私は、ヒト以外の動物たち、季節を知るも時を知らぬと思える動物たちと同じ「時の世界」に生きていた人だったのではないかと思いめぐらせました。
もう一つ、建築について。
展示館が実に居心地が良い。飽きない。めぐる楽しさ。
あまり良いので受付の方に感想を伝えたところ、設計者について教えていただきました。
居宅は大江宏、展示館は、その息子さんの大江新。大江宏は、国立能楽堂などを設計された方です、とのこと。親子の仕事でした。いやもう、両方とも素晴らしいので、ひっくり返りそうに感動しました。こんな親子いいなあ。一緒に仕事をしたのではなくて、時の縦軸でつながり、同じ場所にいるのです。祖父から三代の連結です。
豊かな気持ちで帰る途中、この大江宏さんて、父が、建築の大江先生、といつも話題にしていた、あの大江先生のことじゃないの、と気がついて悔しいのなんの、もっと父と話をしたかったと、思いもよらぬ慚愧の涙でした。
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