方位磁石
18-10-11 21:17 更新 カテゴリ:文学
先頃買った方位磁石だが、私にとっては無用の装置が多すぎた。私は東西南北がわかればよかった。窓から外を眺める、南側とはわかるけど、すこし西に傾いていないかしら、そんな疑問がわいたときに窓辺に方位磁石を置いて針の揺れが止まるのを待つ。これで充分だ。買い替えたのは、針がつっかえて動かなくなったからだった。それが、新規購入の代物は、照準機のような仕掛けがついていて、実にものものしい。細い針金の線と円盤に穿たれた細い溝とを合わせて、はるか遠くの物体と合わせる。これは銃の照準と同じやりかた。太重斉に見せたら、これは登山用だ、と言って使い方を教えてくれた。目指す地点に合わせておき、山に登る。しかしブッシュあり谷あり川あり、常に目指す地点が見えているわけではない。このとき、見定めておいた方位が役立つというのである。納得はいったが、本格的な登山は夢のまた夢、ごつい磁石を机の上に置いて文鎮がわりにした。こうして眺めるうちに発見したことがある。
人生の大目的、とおおげさに構えるもよし、大災害復興を置いてもよいし、身近な人間関係のいざこざ解決を置いてみるのもよい。これに照準を当てる。目的地方位がこれで決まるのである。行く手を確認したあと、右に曲がり、左に折れて、と複雑な道を辿ろうが、目先のことで、ああ言った、こう言われた、とあろうが、目的の地点に向かうことだ。揺るぎはない。当たり前のことだけれど、大勢で取りかかっているような場合、目的が逸れて、途中の事柄が目的化してしまうこともある。見定めた目的の地を目指す。当たり前だけれど難しい。方位磁石はいま、文鎮となって本のページを押さえながら、人の生き方について語りかけてくれる。
人生の大目的、とおおげさに構えるもよし、大災害復興を置いてもよいし、身近な人間関係のいざこざ解決を置いてみるのもよい。これに照準を当てる。目的地方位がこれで決まるのである。行く手を確認したあと、右に曲がり、左に折れて、と複雑な道を辿ろうが、目先のことで、ああ言った、こう言われた、とあろうが、目的の地点に向かうことだ。揺るぎはない。当たり前のことだけれど、大勢で取りかかっているような場合、目的が逸れて、途中の事柄が目的化してしまうこともある。見定めた目的の地を目指す。当たり前だけれど難しい。方位磁石はいま、文鎮となって本のページを押さえながら、人の生き方について語りかけてくれる。