文房 夢類
文房 夢類
myExtraContent1
myExtraContent5

壺猫

文房 夢類

天皇・すめろぎ・すめらみこと

三島由紀夫が「などて天皇は人間(ひと)となりたまひし」と書いた、これを「すめらみこと」と覚えていたが、調べてみると「すめろぎ」と出ている。これは両方とも天皇を意味するが、「すめろぎ」は一般的な天皇の意、「すめらみこと」は今上天皇を指すと思っていた。実際、三島由紀夫は、昭和天皇に向けて発した言葉であろうと思うので、やはり「すめらみこと」の方がしっくりするのではないか。
今回、今上天皇の「お気持ち」なる言葉を聴いている最中に、突然、三島が書いたこの言葉が湧き上がってきた。この瞬間まで私は、三島由紀夫って、何言ってんのよと思っていたのだ、いろいろな意味合いで。二・二六事件に入れ込み、昔を今になすよしもがな、の気分なんでしょ、と揶揄してもいた。
私の天皇観は、小誌「夢類」の読者はご存知と思うが、ひとことで言えば、象徴削除。皇室消滅不問。博物館的存在として大切にしましょう、というものである。理由は、自立型日本人の成長にある。
しかし今回私は、天皇の思うところを聴き、その思考ルートを辿りつつ、仰け反る思いで呟いた、「などてすめらみことは神となりたまはずや」。
 私が国文科で学んでいた時の主任教授岩田九郎先生は、中等科時代の三島由紀夫に国語を教えていらした。三島由紀夫が世に出てからも、岩田先生は教え子を見守り続けていらした。立ち話だったと思うが、三島が『金閣寺』を発表した時に岩田先生は、(彼は)まだ、まだまだですね。とおっしゃった。どういうものか私は、敬愛する師との思い出が「立ち話」のシーンが多い。そして教室で学んだことよりも強く心に刻まれている。先生は遠くを見る目をしていらした。三島由紀夫の父君とも交流のあった先生だ。栴檀の薫りを放つ教え子が若木の内に込めていた精髄を、誰よりもご存知でいらしただろう。
はたしていま岩田先生が、明仁殿下が今上天皇となられてお言葉を発せられるご様子をご覧になられたとしたら、なんとおっしゃるであろうと思い、そして私は、いま思うところを師に訴え語りたいのである。もしも事、極まった場合、天皇と三種の神器の、どちらを救いますか? との問いに対し、三島由紀夫と同じように私は、迷わず三種の神器を守りますと、語りたいのである。



myExtraContent7
myExtraContent8