文房 夢類
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壺猫

文房 夢類

車の夢

車を降りてから、私は車の夢を見るようになった。
いままでも、数知れず運転している夢を見てきたが、車を降りてから見る車の夢は、苦しい。苦悩に満ちている。うなされる。夢の光景は同じだ。いつものように独りで自分の車を走らせている。私は道の行く手を見ている。前に来たことがある道だ。あれ? 今日は工事中らしい。通れない。
別の夜には、この道が一歩通行に変わっている。巨大トラックが道をふさいでいて通れないこともある。とにかく、非常な現実味を帯びて、通れない状況が具体的に現れるのだ。
この道の先に帰るべき家がある。しかし行かれないという困惑は、夢の中では絶望的な苦悩となって迫る。
年が明けて、また車の夢を見た。年明けの夢では、運転はしていなかった。ディーラーにいる。真っ赤な車、美しくも鮮やかなイタリアンレッドの小さな車が目の前にあり、なんだぁ、と私は笑っている。営業の人の声も姿もない。丸っこい、小さな赤い車だけがある。よかったじゃない! これだったら大丈夫。これで車に乗れるわ。もう諦めたのよ、本気で。一度止めた決心したのを覆すのは気が引けるけど、これに決めます。夢の中で私は結構、細かい気持ちの変化を味わっている。喜びが胸一杯に満ちて、幸福感に包まれた。
醒めたときの、信じられない、夢だったとは、という落ち込みはすさまじかった。私はどれほど車に密着して生活してきたかを、改めて噛みしめた。
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