文房 夢類
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壺猫

文房 夢類

猫の意思表示

富士のために、いつでも飲めるように水を置いている。並々と水を満たしたカットグラスの花瓶を食卓に置いている。切り花があるときは本来の役目に立ち返る花瓶だから、富士に我慢をして貰うことになる。お客さんが見えると、花の活けてない花瓶に並々と水が張ってあるので不思議な顔をされる。お客さんが見えているときは、富士は遠慮しているから誰も気づかない。普段はテーブルに飛び乗ってきて飲んでいる。20センチくらいの高さは、猫が伏せずに、自然な姿勢で水を飲むためには、ちょうど良い。始終、床に置いておくのは簡単だけれど、やはり足許の埃やゴミが入りやすいので避けている次第。
朝、富士は水の容器の前に正座して水面に鼻先を近づける。私の顔を見る。身じろぎして座り直し、顔を背ける。私は花瓶を洗い、水を入れて戻す。そのあいだ富士は、顔色も変えずに見守っている。
やがて富士は、目の前に戻された水を、いかにも美味しそうに飲むのである。まあ、飲むといっても時間をかけて舐めているようなものだけれど、それが猫の水飲みスタイルだ。
猫の表情は、顔には出ないということが分かってきた。猫の顔面筋肉には表情筋がないのではないかしら。かわりに身体表現が豊かで、微妙な感情も不自由なく表現するのだ。これ、夕べの水でしょ? 新しく汲み直してちょうだい。あ、うれしい。待ってました! 気持ちいいなあ。こんな声が聞こえてくるような身体の動きです。
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