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Apr 2017

猫と風

春。梅が終わり染井吉野から枝垂れ桜、八重桜と華やかさが増してゆくとき、鳥の動きも活発になる。寒いあいだ部屋に閉じ込められていた富士猫は、窓辺に寄って小鳥の動きを追う。思わず頬ひげが前倒しになり、激しく歯噛みをする。これは意識的にやっているのではなく、狩猟本能だと聞いた。
一緒に庭に出る。富士は後足で立ちあがり、両手でモンシロチョウを挟みとろうと無我夢中になる。高々とジャンプしてひっくり返る。自分の体を使えば、なんだってできるんだという、若猫の溌剌とした意欲が見て取れる。実際、すごい運動能力だ。
ブロックの角やフェンスの縁など、自由な猫たちが通った跡を嗅ぎつけて仔細に調べる。口の中の嗅覚器官も使うので口は半開き、目はうつろ。無念無想の面持ちで情報を取る。どれほど大量、多種類の情報を得ているのか想像もできない猫たちの広い世界。この時富士は私の存在を忘れ、猫たちの社会に入り込んでいる。
その傍らで私も鼻を使う。風の匂い、雨を含む匂いをつかもうとする。風上に向かい、雨が来ると呟いた師匠を思い出している、とうに亡くなった近所の農家の主だ。
次第に風がはっきりしてきた。気がつくとドアの前に座った富士が私を見上げている。風よ、いやよ、と言っている。どんなに面白いことがあっても、風が吹くと逃げ出す猫富士でした。
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猫の留守番

猫に留守番をしてもらうことは度々ある。正確に言うと、出かける時に一緒に連れて行かない、家にとどまってもらうということだ。
犬は、しっかりと留守番してくれる。留守中に訪問者があると満足の行く対応をしてくれるのである。
犬は孤独に弱い、非常に弱い、極めて弱い。どれほど強調しても足りないくらいに、一緒にいたがる心を持っている。
これに引きかえ猫は孤独に強い。というか一人っきり、が普通の状態なのだ。留守中、私のために何もしない。いつも通りに過ごすだけである。
お留守番お願いね、と言って玄関を出るのだが、私はいきなり出るわけではない。支度をして、戸締りをして出かける。私がジャケットを着たり、帽子を頭に乗せたり、リュックを背負う動作を、富士は正座して見守っている。富士は、私の表情を見ているのではない、私の動き、身体全体を観察している。その目つきは観察そのもので、冷静、正確な視線である。
自分の判断で、これから留守番だとつかんでいるから、富士ちゃんお留守番よ、と声をかけるころには、もう目の前から消えている。さっさと居心地のよい場所へ行ってしまい、私を見送るという気はないのである。
家を出てから忘れ物をしたことに気づくことがある。
しまった、財布を忘れた、というようなことは滅多にないが、たいていはハンカチをもう一枚、とか、傘を持った方がいいかな? とかはいつものことだ。
引き返してドアを開ける。帰った! 嬉しいっ! 富士が跳んで出てくる。薄情っぽかった奴が、帰った時は大歓迎する。
富士には、忘れ物を取りに戻ったことが、どうしても理解できない。また出かけてしまうなんて、とうなだれて悲しむのだ。
がっかりさせたくなくて、あれ持った、これ持った、と点検して出かける。それでも忘れ物をした時は我慢する。
誰かと一緒に暮らすということは、こんな気遣いも必要になるけれど悪いことではない。
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猫と付き合う日々

富士猫と付き合い始めてから、猫という生き物についてたくさん発見をし続けている。犬との付き合いが長かったせいで、犬と付き合っているつもりになってしまい、富士を困らせたり、富士が犬的になってくれたりしながら楽しい暮らしである。
呼べば瞬時に私を見て尾を振る、あるいは目を細めて口を開き、ニコニコと視線を合わせてくれる、これが犬。ところが富士猫を呼んでも、チラとも振り向かない。聞こえているのかいないのか、無視している、と感じたのは初めのうちだった。今は違う。呼ぶと知らん顔で窓の外を眺めているが、な〜に? としっぽで返事を返しているのが見える。
猫の言葉の中で大きな比重を占めるのが尾言葉だ。富士の尾は非常に、と言って良いほど長い。尾の長い猫は動きが活発だと言われるがその通りで、立っている私の背に飛び乗ってくる。分別がついたので、電灯の笠に飛びついてブランコをすることはやめたが、床を歩くよりテーブルから窓へ、デスクへと部屋の中間地帯を跳んで移動している。
尾の言葉を読めるようになってから、富士との付き合いが深くなった。喜怒哀楽のほとんどを、尾から受け取ることができる。
尾の短い猫はどうだろう? 外猫のマルオは、名前の由来通り尾が短い。丸く見えるが実は生まれつき鍵の手に曲がっている短い尾なのでかわいそう。それでも尾を使って誠一杯の気持ちを伝えてくる。富士のように尾の先だけを微妙に動かして見せることが不可能な分、左右に振って見せる。これはまるで犬そっくりだ。
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