文房 夢類
文房 夢類
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富士が5歳に

猫の富士が5歳になった。掌に収まる子猫だったのが5キロの重さ、人間の年齢に換算すると約36歳。
30代といえば人生真っ盛り。分別もあり体力もある。幸い怪我も病気もなく、のびのびと猫生を謳歌している。
短毛で尾の長い猫は活発だという。この特徴を知ったのは、すでに何枚かの瀬戸物を割られ、壁の額に飛びつかれ、ペンダントライトにぶら下がって揺れているのを見上げた後だった。
しつけと称して、このような行為を罰する人もいるようだが、まずは観察。
犬のほうが話が通ずるという思い込みがあるものだから、犬、それも亡き千早と比べてしまい、ついに観察の期間が5年間に及んでしまった。
人間同様、猫も持って生まれた性格があるので、姿かたちを知るように、内面もつかむことが付き合いの第一歩で、5年経ってようやく、お互いが解り合えた感じがする。
富士はこっちの都合で左右されるのが嫌い、納得して自分から動きたいたちなんだ、とわかった。
だからハルターをつけて近所を散歩していて、帰ろうか、と声をかけると、帰る気になっている時は家の方に向きを変える。まだ散歩していたい時は、もっと、というそぶりをしてみせる。
こちらのいうことを理解しているが、言うとおりにするかどうかは自分が決めたい。
無理に抱き上げると体の奥で沸騰するような音を立てて怒っているのが伝わってくる。
猫は喜んでいるときにゴロゴロいうが、怒っているときもゴロゴロいう。これはまさにハラワタが煮えくり返っている、という感じを受ける。
人間も怒り心頭のときに、お腹をゴロゴロしたらどんなものだろう、あ、本当に怒ってる、と伝わるかもしれない。空腹と誤解されるかな。
千早が私の心と心を合わせる喜びをもっていたのに比べると、富士は、常に自分は自分だから、気心が知れてしまうと、同居していて疲れない相手と言えるだろう。
富士は我が家を自分のテリトリーと認識しているので、常に外回りに警戒心を働かせ、怠らない。
吠えて知らせてくれる千早がいた時は心底安心していたが、富士との暮らしでは、こればかりは期待できないと最初から諦めていた。猫は吠えないから。
が、犬よりも聴力に優れていると言われるネコ族だ、わずかな音に対して鋭く反応する、しかし決して声は出さない。
待ち伏せ式の狩猟方法を持つネコ族は、緊張するといっそう音を消そうとする。代わりに微妙な変化を見せるのは、その姿、毛並みだ。
富士の姿を見ることで、外の気配を素早く感知することができるとわかった時は嬉しかった。
ガレージに車が入る、インターフォンの前に人が立つ、これより以前に察知できて体全体が変化する。
という次第で、最近の富士は防犯猫として頼りにされるようになっています。

ふるさとを見下ろす

五月晴れの朝、新宿方面へ行く用事のついでに都庁展望室へ寄った。
いつでも来られると思ううちに、一度も行ったことがない、となりそうなので思い立った。
新宿駅から動く歩道に乗り、決して歩かず、並行して歩く人々や店を見物する。まるでお上りさんだが、この界隈の変化は見ものであるというわけだ。
都庁に入ると、いきなり長い行列が伸びていた。観察するにガイジンの群れのようである、しかしこれが目的の展望台への行列だったのだ。
HPで調べてこなかったので仕方がない、並んでいる人に声をかけたら40分待ちだという。
やがて正午を過ぎてしまい、都庁で働く人々が昼食のために出てきた、これを眺めるのも興味深いことで、都庁で働きたいと希望して働いている人々の特徴を集約してみる。
浮いてしまう人種は、最初から参加をやめたほうが良いのだ、集団には参加する前に自分自身を見極めないと苦しむことになる。相手の組織がいけないのではない、自分自身の性根から浮遊した希望を持つことが間違いなのだ。

12人乗り2基のエレベーターが45階の展望室までピストン輸送をしていた。
エレベーターに乗る前に荷物のセキュリティ検査があり、これはいつも行われているものであるか、それともトランプ大統領来日に備えてのことかはわからない。
展望室のガラス越しに見物した。地上202メートルからの眺めは、期待通りの五月晴れ、素晴らしいものだった。はるか遠くに富士山、丹沢山系。目の下には高層ビルが林立して、それぞれデザインを誇るかのようだ。
スカイツリーが見えた、特徴のある網目模様のモード学園、新宿センタービル、KDDI、国立競技場、明治神宮、オペラシティ。あれも見えた、これも知ってる。
右往左往して大喜びだが、外国から訪れた人々は、それそれの建物と結びつく糸口がないから全体を眺めて、すぐに終わりだ。
年配の男性が背後から英語で話しかけてくれたので振り向いたらボランティアの人だった。
ボランティアの味はいかがですか。
展望室へ上がるためには40分も待つが、いったん上がってしまえば好きなだけいられるという。話しているうちに仲間のボランティアの人も寄ってきて楽しい輪ができた。
みなさん70代だという、月に1回来る人、2回の人と、いろいろで、他の日は地域の子どもたちの世話をしている人もいた。
この展望室にくる8割の人が外国からの観光の人だそうで、日に3000人。若い時に海外で仕事をしてきた経験を生かして、この展望室に来ているのですよ、とも話してくださった。
最近はQRコードで詳細な情報を読み取ることができるために、ここは「忙しくない」そうだ。いやもう地元は忙しくて、と初耳な話も聞かせてもらった。

ひとしきりして再び見下ろす新宿。あっちの方向に淀橋浄水場があった、その向こうが柏木の淀橋病院。今は東京医大というけれど。
ここで、あたしの子どもが生まれたんだ。その先、成子坂の方へ歩いていったところで生まれたんだ、私は。
高層ビル群が霞んできて灰色一面の焼野原が浮き上がり、それもたちまち消えて木造平屋の家々が並ぶ、地形が露わに見える武蔵野の台地が地平線の果てまで伸びていった。
ふるさとを見下ろす空は五月晴れ

認知症を減らすこと

認知症を減らすには、の話題。
統計を取り、何年先に認知症患者がどのくらい増えるかを予想。増加を防ぎ、罹患率を下げようと努めている様子が、日々のニュースから伝わってくる。
ボケ予防としてパズルをしたり、野菜の名を思い出せる限り書き出したりの工夫。
高齢者たち自身も、いやあ、ボケ防止と思って歩いてますわ、などと挨拶代わりにボケを使っている。
自動車運転免許更新手続きの一環として、高齢者講習が義務付けられている。運動機能検査などある中に、認知機能の検査もある。
その検査方法は、時計の文字盤を描き、時刻を長針短針で示すものなどいくつかある。
記憶力テストでは、何枚かのパネルに数種類のもの、たとえば野菜、動物、道具類などの絵が並ぶ。
これを次々に眺め記憶し、ややあってのちにパネルの絵を思い出せるだけ思い出して書きつらねるという検査である。
このテストを喜寿の頃にやったのが最後だが、終わって講習所を出ようとした時に講習所の人に呼び止められ、全問正解、順序まで正確だった、と驚かれた。
あらまあ。これは頭が良いわけではない、だいたい、バナナ、ハサミ、ラクダ、自転車。こんな風に並んでいるものをどんどん覚えられるわけがないのである。
人間、無意味なことに力を出せるようには作られていないのである。記憶するために記憶するなんてバカバカしいじゃない。
批判、反発、炎上を覚悟でいうと、高齢化とともに進むボケは自然現象であり、もう頭を使いたくなくなっているのではないか。
無意味になっているのだと思う。思い煩うことから解放されたいのである。楽になりたいのである。まだらボケなんて天国じゃないか。

先の話題に戻ると私の方法は、すぐさま物語を作り、モノをはめ込んでゆく。たとえばバナナをハサミで切ったらラクダった。というように。
途中で物語が途切れては続かない、最後まで繋がる物語にしてゆくことがコツ。
いくらパズルをやっても、指の運動をしても、野菜の名前を思い出しても、認知症を防ぐことはできないのではないか、と思う。
このように愚考を重ねている折しも、『老いと記憶』副題=加齢で得るもの、失うもの 増本康平著 を読んだ。読書評に書きます。

高原書店、閉店

今朝、と言っても昼寄りの、10時を過ぎている今、地方版ニュースで高原書店が一昨日の5月8日に閉店したと知った。
東京都町田市のJR・小田急線の町田駅にほど近いところにある古書店で、1974年に開業した。
細々とした開店当初から表現したいことを持っている古書店だった。40年を超える付き合いになる。
が、最近はご無沙汰していたのだ。なぜかというと車を降りたことが原因。車で気軽に行けていたのが、バスだ、電車だ、駅から歩く、というわけで足が遠のいていた。
もう2つ原因がある。
1つはネット検索で日本国内の登録古書店から希望の資料が発掘できることで、もちろん、この中に高原書店も入っていた。
2つ目はkindleで、深夜、突然読みたくなった時でも、即、買い、瞬時に読めること。
しかしネットでは、高原書店は検索の上位に出てくるので、元気にやっているなあ、と安らかな心地でいたのだ。
社長の部屋でお茶をご馳走になっていると、受注本の発送に忙しい様子が見て取れたから本物の破産らしい様子に衝撃を受けている。
小誌「夢類」でも取材させていただき、取り上げたことがあった。
この書店は、創業時から一貫して発信する姿を続けてきていた。子供たちへ読み聞かせ、大人たちへ朗読会。
陽子社長と親しい役者さんたちが協力、出演してくれる、身近で新鮮な舞台。
こういうことを無料で行い続けてきたのだ。
このお店でバイトをしていた三浦しおんさんが直木賞を受賞した時、陽子さんは身をよじって喜んだ。
立て込んでいるだろうが、ちょっと行かねばならぬ。前にも破産寸前まで詰まったことは、あったのだ。

晩白柚

鹿児島の友達から晩白柚を1個、貰った。バンペイユと読む。
初めて見るもので、びっくりした。直径20センチを超える巨大みかんで、ギネスブックに登録されている世界最大級の柑橘類だという。
見た目は夏みかんそっくりだが、夏みかんより肌触りが柔らかく、弾力がある。
窓辺に飾ったら2部屋続きの空間がみかんの香りで満たされて、身も心もほんわか。すっかりくつろいでしまった。
マレー半島が原産地で、これが九州に伝わり、今では熊本県八代が名産地に育ったそうだ。
長持ちするみかんで、約ひと月は眺めて楽しめるというが、我慢なしの私は早速賞味。
さっぱりとした上品な味わいで、なにしろ大きい房だからフルーツサラダに入れても見栄えがする。
同梱の解説書に従い、果肉と表皮の間にある白い部分を料理した。この部分は、みかんを剥いたときに出る白い筋と同質のもので、
海綿状の白い部分は、なんと厚みが2センチ以上ある。ものすごい厚み。これを熱湯につけて云々、やがて3日ほど天日に干した。
干し芋づくりのように天日に晒したのは私のアイディアで、猛烈甘くして砂糖漬けにする方法が一般的らしい。
一見、生姜糖に見える出来上がりだが、好みの薄味なので甘さは仄かなものに仕上がった。
ところで、この白い部分、いつも邪魔にされている白いところに、ビタミンPがあると知った。
ビタミンPの働きは、なかなかのものであるという。
例えばビタミンCと協力して毛細血管のメンテナンスを行い、肌の老化を防ぎ、シミ、シワを遠ざける。
脂肪分解力があり、中性脂肪を抑制。動脈硬化を防ぐ。
ビタミンCを守り、安定化させる。
これはなかなか良いので、ぜひ広めて熊本応援に加わりたいと思います。
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