文房 夢類
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無私の言葉

昨日のこと、野球選手のイチローさんが引退し、会見を行った。TVのニュースで知ったが、その後はどこのチャンネルでも何度も報道し、今日もさらに続く報道は、国民栄誉賞に話題が及んでいる。
芸名というのか商標というものか知らないけれど、姓名ではなく、名前だけをカタカナで表して世に出てきた、この時の新しさを覚えている。当時はなかったことだ。
天与の才能の上に比類のない鍛錬、努力、工夫を積み重ね、人知れぬ苦難も克服しての今日に違いない。周辺の大勢の人々が、口々に賞賛の声を上げている。
1時間20分に及んだ引退会見では、周囲のすべての人々に感謝と思いやりを示し、妻をねぎらい、愛犬にも話が及んだ。
周到に計画された機知に富んだ会見は深夜に輝き、すばらしかった。帰宅して家族に囲まれ、大成功だったと喜びあうことだろう。

これより約2週間前の夕方、流しに向かいながらTVをつけていたら清原和博と聞こえたので振り向いた。
覚醒剤取締法違反で有罪判決を受けて以来、報道に名の出ることのなかった元プロ野球選手。甲子園以来、すごいスターだった人だ。
すっかり姿を消していた清原さんが、ゆっくりとした低い声で話していた。一文字も揺るぎのない、しみ入る言葉だった。私はTVの正面に棒立ちになって聞き入った。
言葉の持つ力、重さ、輝きに、私は感動で動くことができないほどになった。文学で、これだけの発信を見たことがあるだろうか? 及ぶものではない。
彼は書いたものを読んでいるのではない、思うことを口に出している。その一語一語が、取り替えの効かない誠実、真の言葉だった。

ネットを検索して探したが、完全文は見つけることができなかった。TVは、2度とやらなかった。が、概要は次のようなものだ。
その日、都内で行われた厚生労働省の主催したイベント「誤解だらけの”依存症” in 東京」に出演したもので、一般客約180人を前にしてのトークセッションだった。
話す相手は、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師。清原氏は現在も2週間おきに通院して治療を続けているそうで、主催者側の配慮で、たったの5分間出演だった。
苦しんでいる人のためになれば話そうと、松本医師に語る形で自身の歩みと心の内を語ったもので、ぶっつけ本番だったという。
さらに検索すると、その前日に母の死があり、しかも死に目に間に合わなかったという。どれほど愛されていた息子かということもたくさん出ていた。
2週間以上経っても、忘れられないどころか、大きく広がり、輝きを増す5分間の言葉。
自分の姿を眺める人々がどう思うか、など雑多な諸々が打ち捨てられて、無私の心にいる姿、在るものは、弱き者たちへ差し伸ばそうとする手だけだ。
亡き母よ、嘆くな喜べ、立派な息子だ、と追悼の心を送ろう。忘れることのできない、時に思い出す価値のある人だ。




星の瞳

北風一方通行の季節が移り、南風の日が混じるようになった。重いジャケットからマフラーを外して気分も軽くなる。
が、相変わらず風邪をひいている人は多いから、バスには乗らずに歩いている。
ちいさなスミレのような花びらの、青色の花が群れて咲いていた。これはオオイヌノフグリ。
身近な草花には、なんで? どうして? こんな名前をつけたの?
とたじろぐ名前が、よくある。オオイヌノフグリは、その一つだ。並んで生えているスズメノカタビラも、その一つだ。ヘクソカズラというつる草もある。
漢字で書くと「大犬の陰囊」「雀の帷子」「屁糞蔓」となる。
日本の植物学の父と呼ばれる牧野富太郎博士は600種余りも新種を発見され、名付け親となった植物は、オオイヌノフグリを含めて2500種以上もあるという。
なんか、その時の気分もあったのかもしれないが、名付けられて代々呼ばれる身になったら、あんまりだなあ、と歩きながら思いめぐらせ、帰宅して別名を探してみた。
発見した別名が、星の瞳。ちょっと良すぎるかな。いやいや、春を知らせる先駆けの花にふさわしい。思い出の言葉が浮かんできます。
「天に星 地に花 人に愛」「君の瞳に乾杯」 
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