文房 夢類
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June 2019

トンボ、空へ

去年完成したビオトープが安定した姿を見せはじめた。
アワビの貝殻や、石ころ、タイルで作ったトンネル、お土産の釜飯のお釜を横向きに置いたものなど、メダカのお家をたくさん作って冬を越した。
冬の間に助かるでしょうと用意したのだが、今も隠れ家として便利に使われている。
ところがこれも良し悪しで、餌をやり、眺めようと寄って行くと、足音を察知して矢のように素早く隠れてしまう。彼らは耳で聞くのではない、胴体の側線で感知する。
畳1畳程度の浅い水にいるメダカは、水槽のメダカとは別種のメダカになってしまった。とにかく群れる、早い、隠れる、慣れない。可愛さなんて、ない。
底に敷いた砂の上に、冬の間に堆積した枯葉やゴミに混じって、脱皮したヤゴの抜け殻がたくさん漂っているのを見つけた。
トンボの幼虫ヤゴは、何度も脱皮を繰り返して成虫になる。越冬した大きなヤゴもたくさんいて、寒さには、猛烈強い。
このヤゴは、メダカにとって天敵と言われるほど獰猛な肉食系だから、メダカは命がけで暮らしている。
ビオトープにした以上、小型ながらも弱肉強食の自然界が形成されたのだから、見守る側は、我慢しなければならない場面に出会うことは避けられない。
ボウフラなんて、食われてしまって皆無だし、メダカの卵が孵化しても、親メダカは平然と食べてしまうし、ヤゴは想像もできないほどの速さでメダカを捕食する。
けしからん、とヤゴを撲滅したらビオトープは成り立たない。対抗手段はメダカの卵を保護して数を増やすことか、と思案する。
こうした日々が続き、やがてヤゴが、濃灰色の6本足の怪獣風の虫が、水から這い出て羽化する季節になった。
トンボは夜中から明け方にかけて羽化し、朝日を受けて羽がきらめく。晴れて微風がある恵まれた日に旅立つトンボは幸せだ。朝6時には青空へ飛び立ってゆく。梅雨時の曇りの日には、羽が伸びて乾くまでに相当時間がかかり、8時過ぎまで動けない。
トンボの一生の中で最も無防備な羽化のあいだ、高齢の猫、マルオは無関心だから安心していられるが、好奇心いっぱいの富士に見つかったら最後だ。9月のお彼岸の頃までは、空へ旅立つトンボたちを見届けてから富士を庭に出してやることになる。
やがてトンボは蚊などの小虫を捕食して、産卵のために水辺に戻ってくるが、空へ出発したトンボたちは、のびのびとして安全かというと、ここもまた緊張の世界だ。
蚊にとっては恐ろしいトンボだが、鳥たちにとっては、格好の餌食だ。
生き物が生き延びて、さらに次世代を作るということが、どれほど大変なことか。並大抵ではない、気が遠くなるほど大変なことなのだ。

入園→入学→入センター

4月の新学期から2ヶ月が過ぎて、昨日は梅雨入りした。
幼稚園児も小学生も中高校生たちも、すでに「新」から脱け出て、今が当然といった表情だ。
最近は4月に限らないが、入所する新入りの人たちがいる。デイケアセンターに通う高齢の市民たち。
介護ホームのように入所したきりになるのではなくて、毎週日時を決めて通うシステムだから、どちらかというと登校する子たちと似ていると言える。
私は、高齢者のデイケアセンターに興味津々なのだが、まだ見学したことがない。
よく知っている知人たちの話では、通うようになると変わりますよ、とのことで、見学では見えないそうだ。

ムラサキツユクサ

緑の季節。紫陽花が見頃を迎え、立葵が咲き始める梅雨の時期に入った。
ムラサキツユクサも咲いている。この花は花壇に植えることもあり、道端のような、さりげないところにも咲く身近な花で、ツユクサとともに朝開き、夕べには閉じる1日花だ。
このムラサキツユクサは、放射能の影響により花の色が変わるという。これは3.11の後しばらくしてから知ったことだ。
本来は濃い青色の花びらだが汚染された土地では、花びらの色がピンクに変わるので、土壌汚染のバロメーターになるという。
これは聞いた話なので調べてみたところ、確かに書かれてもいるが出所が明らかではない。自分では確かめるすべもない、あくまでも「伝え聞いた話」なのだ。
それでも、つい花の色が気になって去年も今年も撮影しては、撮影地を記録している。
はっきりとした三角形の群青色の花の中心に黄色い蕊が映える美しい花。
これは事実だろうか、風評か。
観察するに花の色は年々色褪せて、今年、市民農園のほとりに群れ咲くムラサキツユクサの花びらは、雨に濡れた桜の花びらのような淡色である。
風に乗って運ばれる噂を信じることは危険なことだ。別の場所では昔ながらの花色もあるのだ。
出所の確かな情報を得ようと吟味を重ねる昨今、道端から無心に見上げてくる花に耳を寄せる、聞かせてくれるだろうか、花の声を。
今は見えないものを見なければならず、大合唱に消される小さな声に耳を傾けなければならない時代。
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