文房 夢類
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猫の留守番

猫に留守番をしてもらうことは度々ある。正確に言うと、出かける時に一緒に連れて行かない、家にとどまってもらうということだ。
犬は、しっかりと留守番してくれる。留守中に訪問者があると満足の行く対応をしてくれるのである。
犬は孤独に弱い、非常に弱い、極めて弱い。どれほど強調しても足りないくらいに、一緒にいたがる心を持っている。
これに引きかえ猫は孤独に強い。というか一人っきり、が普通の状態なのだ。留守中、私のために何もしない。いつも通りに過ごすだけである。
お留守番お願いね、と言って玄関を出るのだが、私はいきなり出るわけではない。支度をして、戸締りをして出かける。私がジャケットを着たり、帽子を頭に乗せたり、リュックを背負う動作を、富士は正座して見守っている。富士は、私の表情を見ているのではない、私の動き、身体全体を観察している。その目つきは観察そのもので、冷静、正確な視線である。
自分の判断で、これから留守番だとつかんでいるから、富士ちゃんお留守番よ、と声をかけるころには、もう目の前から消えている。さっさと居心地のよい場所へ行ってしまい、私を見送るという気はないのである。
家を出てから忘れ物をしたことに気づくことがある。
しまった、財布を忘れた、というようなことは滅多にないが、たいていはハンカチをもう一枚、とか、傘を持った方がいいかな? とかはいつものことだ。
引き返してドアを開ける。帰った! 嬉しいっ! 富士が跳んで出てくる。薄情っぽかった奴が、帰った時は大歓迎する。
富士には、忘れ物を取りに戻ったことが、どうしても理解できない。また出かけてしまうなんて、とうなだれて悲しむのだ。
がっかりさせたくなくて、あれ持った、これ持った、と点検して出かける。それでも忘れ物をした時は我慢する。
誰かと一緒に暮らすということは、こんな気遣いも必要になるけれど悪いことではない。
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