文房 夢類
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文房 夢類
September 2012

なぜ日本の政治はここまで堕落したのか

なぜ日本の政治はここまで堕落したのか』副題=松下政経塾の大罪 榊原英資著 朝日出版2012年発行 ISBN978-4-023310704 ¥1600 238頁 187mmX128mm
著者=1941年東京生まれ。東京大学経済学部卒 米ミシガン大学経済学博士号取得 大蔵省国際金融局長、財務官など歴任。青山大学教授。著書『ドル漂流』など。
内容=タイトルの通り。日本の政治家の質が低下している現状と、経済も行政も知らない素人を政治屋として量産している松下政経塾を分析、否定する。
感想=本を売るためのタイトル。松下政経塾云々について知りたい向きは数頁読めば十分で、それは最終章の最後にある。実生活で何一つ経験せずに、単に政治家になりたいという気持ちで政経塾で学び、演説と朝立ちだけが達者になったバカ、という見方である。では、ほとんどの頁は何か。私は、この部分が興味深く、また、非常に有益だった。なにが記されているか、というと、日本の政治世界の、明治から今日現在までの足取りが、仔細に、整然と語られているのだ。歴代の総理大臣が、そのとき何をしたか。総理のぶち上げたスローガンは、実は官僚の誰の知恵であったか、誰が書いたか、なども語られる。
池田勇人の「所得倍増論」田中角栄の「列島改造論」の縁の下にいた官僚について。日本の場合、法律を作っているのが、実は官僚であり、政治家はロビイストであるという現実の姿も書かれていて、アメリカの議員が、それぞれ100人を越すスタッフを抱えて働き、自分で法案を出し、通してゆく姿とは全く違う、ということも語られる。世界主要国の議員の労働時間と給料も表として出している。
TVにもよく出演して顔が売れている著者だが、TVでは顔だけしか印象に残らず、何を言っているんだが、という人だが、この、整理された客観的な記述は、教科書にしたいほど優れていると思う。選挙制度も、はじめて理解できた。読後の感想としては、さすがの官僚、理路整然、堂々、動かぬ事実を述べたあとで、自分自身の感情も含めた評価を終章にいたり含ませてゆく技巧は、まさに芸術的である。大臣ならずとも、このように耳元で諄々と説かれたとしたら、なんか自分自身が思いついたかのような気になって、相手の思惑に同調してしまう可能性がある、と感じた。総合誌で、元官僚の論文をいくつか読んだが、この手口はパターンだった。

原子力帝国

原子力帝国』(DER ATOM-STAAT)Robert Jungk(ロベルト ユンク)著 山口裕弘訳 社会思想社 1989年発行ISBN 4-390-11281-3
¥520 262頁 文庫 105mmX150mm 現代教養文庫1281
著者=1913~1994 ベルリン生れ 作家・演劇評論家、マックス・ユンクの子。哲学者。ベルリン大学で歴史・心理学を学んだ後、ナチス台頭下の激動の時代をパリ・プラハ・チューリッヒなど転々としながら論陣を張り寄稿する。ドイツ系ユダヤ人。
内容=本書は1977年に発表され、ベストセラーとなり、数カ国語に翻訳された。日本では本書が出版されたが、2002年に出版社が経営不振のために消滅、従って絶版。古書として、この文庫本で12000円ほどで、わずかに流通している。いま、復刊の希望が多く寄せられている注目の書。
 核分裂を技術的に利用することにより、権力の新たな次元をめざす飛躍が成し遂げられた、とし、世界中の社会の硬直化、一般市民の言論・思想の自由の喪失、独断独善の帝国主義の到来を予見する。原子力は、まず敵対国へ向けて使われたのち、平和利用に向かうが、戦争のための原子力と原理的には違いはなく、生命に敵対する性格は変わらない、と説く。この状況下で社会、政治がどのように変化をするか、市民がどのような影響を受けるかについて、冷静緻密な思考が述べられる。
感想=1977年に、いまの日本の政治家たちを見てとり、福島を訪問したかのような記述をした著者に驚嘆する。

鬼太郎と行く妖怪道五十三次

鬼太郎と行く妖怪道五十三次』水木しげる著 (株)やのまん発行2008年 ISBN978-4-903548-12-8 ¥2200 128頁 265mmX210mm
著者については、改めて記すに及ばないだろう。妖怪専門家。この本では絵師と名乗っている。
内容=広重の東海道五十三次の版画、日本橋から京都までの53枚を見開き頁の左手に小さく置き、妖怪の解説をし、右頁に鬼太郎五十三次の版画を置く。
広重の版画と同じ構図をとり、そのある部分、部分に妖怪を出現させている趣向。妖怪の種類は300 種。鬼太郎とねずみ男が旅人である。
特徴は、水木の原画を伝統木版画で制作していること。広重の版画は、定評ある保栄堂版。解説は編集者の手になる文。
感想=この夏、都市伝説の本を数冊読んだときに、たまたま目にとまった本。水木の妖怪は、日本全国の妖怪を実際に収集しているので信頼できる。夢類で作った本「周防のななふしぎ」に出てくる、山口県だけに生息する妖怪「しだいだか」は、まず、いないだろうと思ったら、なんといたので、びっくりした。生息する、とは土地の言い伝えの中に語り継がれて残っている、という意味である。民話伝説の世界に生きている、という意味である。「しだいだか」は、旅人が恐れて振り向くと、振り向く度に大きくなって迫ってくる灰色の妖怪。
ひしひしと感じたことは、水木しげるが江戸の広重の絵と向かい合い、取り組むときの姿勢、意気込みが、まるで同世代の人に対するような闘志を燃やしていることだった。負けてなるものか、広重に馬鹿にされたくない、見比べて、広重が泣いているよ、などと読者に言われたくないっという、絵師同士としての張り合い。画家であれ、音楽家であれ、作家であれ、時の隔たりは、ない。素敵だなあ、と思う。

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