文房 夢類
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文房 夢類

日米同盟の正体

日米同盟の正体』副題=迷走する安全保障 孫崎 亨(まごさき うける)著 2009年講談社発行 ISBN978-4-06-287985-9 280頁 現代新書
著者=1943年旧満州国生まれ 東京大学法学部中退 外務省入省、ウズベキスタン大使、国際情報局長。2002年より防衛大学教授 
内容=戦略思考欠如の日本が米国一体化の道に押し流されてゆく姿と、冷戦後の米国の、新たな脅威を求めて強引に迷走する姿を復習する。その上で経済も含めた安全保障問題を考える。
感想=出版界は「壁」本が流行ると壁々、「崩壊」本が売れると崩壊々々、これは「正体」本である。しかも新刊ではないのに、いま注目されて読まれている。日々のニュースを知った段階で終わり、翌日の生活に入ってゆく。立ち止まって検証しないために全貌をつかめずに暮らす。流されてゆく、この日々のツケは、結局国民の一人一人にかかってくる。時間軸に沿って世界の動き、とくに世界中に対して影響力の強い米国の実態を見て把握することは、大切なことだ。本書は、その復習をしてくれている点が役に立つ。英米の、戦争を仕掛けるやり口を復習している冒頭の部分が読み応えがある。リンカーンが南北戦争の時に、相手に先に攻撃させた手口、第二次大戦の時に真珠湾で先に日本に攻撃させた手口、9.11を、この先例にならって検証する。見事に符合する”獣道”だ。世論操作も報道のでたらめさも、日本は米国の真似をしているのか、と感じた。著者と並んで考えてゆくことで、日本の先も見通せると思った。

極北の犬 トヨン

極北の犬 トヨン』TOYON,a dog of North and his people ニコライ・カラーシニコフ(Nicholas Kalashnikoff)著 高杉一郎訳 1997年徳間書店発行 ISBN4-19-860725-7 318頁 128mmX182mm
著者=1888〜1961シベリア生まれ 人民解放運動に加わったために政治犯としてシベリアに流刑。のちにアメリカに移住、英語で子ども向けの物語を書いた。本書はドイツ語に訳されて、ドイツ児童図書賞大賞受賞。
訳者=1908〜2008 本名小川五郎 小説家 評論家 翻訳家 改造社勤務の後、徴兵。シベリアに抑留される。のち、静岡大学などで教える。
内容=著者の実話をもとに30年後に英語で書いた児童向け物語。政治犯の青年がシベリアに護送される途中、泊めてくれた家の主、猟師のグランが語ってくれた、彼の犬、トヨンを中心とした物語。シベリア東部の厳しい自然、その地で暮らすヤクート人たちの暮らし、悲惨だったグランの出発点と、どん底で出会った妻との絆、少年少女が成長して結婚に至るまでの清涼で熱い物語などが織りなす、深い感動の家族の歴史である。犬と人と一体となった一家族の、物語である。
感想=著者も、訳者も、シベリアに流刑になった人なのだった。訳者の訳文は、ただの訳ではない、身体で、心で、シベリアの自然を描いてくれている、と感じた。穏やかで、美しい日本語である。このような著者と訳者の出会いは滅多にないことで、読者にとっても、またとない僥倖だと思った。優れた犬と出会い、対等な深いつきあいをした経験のある人だったら、すべて納得の行く人と犬の姿が描かれる。子犬が成長してゆくありさま、幼女が娘に変身し、女に変化してゆく姿、脇に出てくる老人の知恵の深さ、トナカイやオオカミの習性の描写など、どこを見ても、すばらしい、の一言に尽きる。

木の教え

木の教え』塩野米松(しおの よねまつ)著 画=三上修 草思社2004年発行 ISBN=4-7942-1329-8 ¥1200 128mmx187mm P206
著者=1947年秋田県生まれ。作家。聞き書きの作品が多い。本書のほか『手業に学べ』『聞き書きにっぽんの漁師』ほか。
画=1954年神奈川県生まれ。自然科学のイラストを得意とする。
内容=日本人が木と付き合ってきた長いあいだに身につけた知恵を、現場で木を扱う人たちから聞いた数々。イラストは、写真で示されるよりも、はるかにわかりやすい。非常に丁寧なイラスト。文章は、です、ます体で、実に暖かみのある、ゆったりとした語り調。
感想=木の性質のいろいろ。山のどの場所に生育した木か。宮大工、船大工の話。どのページも目を見張る面白さである。知らないことが一杯。そうだったのか、と納得することも多い。越後にへぎソバという名物ソバがある。「へぎ」に入れて供する故にへぎソバという。へぎについてでていた。
厚い木から薄い帯状のものをつくることを「へぐ」と言う、と書いてあった。へぐ、は剥ぐの訛りだろうか。「へぎそば」は、薄い木の平たい箱のなかに、小さくまとめたソバを並べてある。へぎ、という入れ物に入れて供するのがへぎそばだ、と納得していたが、へぎがどういうものかが、この本を読んではっきり分かった。
最後に「木の自殺」という話が出ている。これは植木屋さんから聞いた話。木を移植するときは、それまで育ってきた環境とできるだけ同じにしてやるのだそうだ。新しい環境が悪いと、木は育たずに死んでしまう。植えた人や育てる人が下手か、不真面目なために殺されて死ぬのが半分、木自身がそんな状態で生きてゆくのがイヤになって自殺するのが半分だという話。木が枯れる、と言わずに死ぬ、と表現している植木屋さんが心に残った。
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