文房 夢類
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文房 夢類

ある日 丘の上で

      ある日 丘の上で        西 一知

      数字が
      ある日 丘の上で
      無数の天使となって散らばり
      転げ回り
      みるみるうちに見えなくなってしまう

      丘のみえる町は
      その日から静かになり
      じわじわと病気が広がり始める
      人びとは窓も扉もしめ
      通りへ出なくなる
      学校も店も銀行も閉ざされる

      だが病気は
      どんな戸のすき間からも
      しのび込む
      しめた扉の内側で
      人びとはひっそりと死ぬ

      町中を屍臭がおおった
      人びとの姿はみえない
      新興住宅地の家々は
      皆真新しく
      児童遊園地には花もいっぱい
      小鳥もいっぱい
      空にはきょうも太陽が
      何ごともなかったように輝いている

                               2010・3・28   夜


西 一知氏は、1929年 横浜生まれ
       2010年 5月4日  肝臓癌にて死去  81歳
                 岩手県滝沢市滝沢村にて

この詩は、亡くなる37日前に書かれた。
今、滝沢村に、亡くなられた場所に、西 一知記念館があります。

わたしは、この詩を、2021年9月末に見つけた。

詩の第一行目は、神様からもらう、と言ったのは田村隆一さんです。

      今月から、作品一編のみを取り上げることも、試みることにいたしました。
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