文房 夢類
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文房 夢類

無人化と労働の未来

無人化と労働の未来』副題=インダストリー4.0の現場を行く ARBEITSFREI Eine Entdeckungsreise zu den Maschinen,die uns ersetzen 著者=コンスタンツェ・クルツ&フランク・リーガー 訳=木本栄 発行=岩波書店2018年 サイズ=190mm 234頁 ¥2800 ISBN9784000022347
著者=コンスタンツェ・クルツ Constanze Kurz 1974年東ベルリン生まれ。情報学博士。ホワイトハッカー集団 Chaos Computer Clubのスポークスマンの一人。ネット社会の自由と人権保護をテーマとするニュースブログ・ブラッドフォームnetzpolitik.org 編集員。他多々。
   フランク・リーガー Frank Rieger 1971年旧東ドイツブランデンブルク州生まれ。ハッカー、コラムニスト、インターネットアクティビスト。通信セキュリティ企業の技術最高責任者。 Chaos Computer Clubのスポークスマンの一人。他多々。
訳者=きもと さかえ 年齢不詳 ロンドン生まれ。ボン大学卒。ベルリン在住。
内容=プロローグとして、日本の読者に向けて12頁にわたり解説がついている。この中に、本書の副題にあるインダストリー4.0の説明もある。これは第4次産業革命とも呼ばれるプロジェクトで、ソフトウェア、ロボットとネットワーク化による製造現場の変革推進である。
二部に分かれていて、第一部では畑からパンになるまでを現場見学ツアーに参加したかのように案内、この製品が無人化が進むロジスティクスによって、整然と迅速に消費者のもとへ届けられるまでを見せる。
第二部では、このような機械労働の影響、労働の未来を考察する。まず、運転手のいない自動車について。次に、しかし機械は人のためにあるのだ、人に対してやさしくあるためには、を考える。最後に置かれているのが「知能の自動化」だ。
この後にエピローグとして19頁があり、ここに著者ふたりの思想が織り込まれている。
感想=水車小屋から始まったパン作りが、ドイツでは今や、日に千トンの穀物を完全自動で製粉加工する。これが多種類の製品となり包装されて消費者へ届く。
これはドイツ国内の話だが、日本も同じだ。最終段階のロジスティクスも、アマゾン・ロジスティクスと付き合っていると、今やこれが当然、自然にさえ感じられる。
畑で大働きをした夫婦が疲れ切って眠っている真夜中に、屋根裏から小人さんたちが現れて働いてくれました、というファンタジーを超える働きをしてくれる今時の機械。
第一部を読んで、これが今なのだと、少しも驚かなかった。製造業だけではないことは、いまどきの銀行を見ればわかる。
第二部の運転手のいない自動車についても、ドイツも日本も同じだ、何が同じかというと、実用に至っていない点が同じなのだ。立ちふさがる難関を解決するには、と著者ふたりは、カメラ、センサー、などなど思案しているのがわかる。
この難関突破作戦の行く手に立ちはだかっているのは、安全面、事故のリスクの先にある責任や社会の判断などで、文面は機械技術から浮遊した言葉、たとえば賠償、義務、考慮、悪意、攻撃、感情的、禁止令などなどが、並んでいるというよりも、ひしめく。
最後に記されるのが、事もあろうに脳みそのロボット化である。
ここが読みごたえのある部分であり、読むだけではなく、読者が先頭に立って考えを進める必要がある部分だ。
これを詳細に語ることは、本書を読まずして内容を入手することにつながるために伏せるが、一つ例を挙げると、取材し、文章化する場合も人間の頭が不要になるという。
スポーツ記事を書く場合を例に挙げているが、野球なら野球専門、サッカーならサッカーに詳しい記者が腕によりをかけてレポートするのと肩を並べる記事になるだろう。これもまた、ドイツだけの話ではない、私にもわかる日本の話だ。
エピローグの最後に4行、ニコラ・テスラ(1856〜1943)電気技師、発明家の、次のような言葉が置かれている。
       現在、ロボットは受け入れられたものの、その性能はまだ十分なレベルには到達していない。
       21世紀には、かつての文明で奴隷が担っていた労働がロボットに取って代わられるだろう。
       1世紀のうちに、それが叶わない理由は何もなく、それによって人間は、より崇高な目標を目指せるよう解放されるのである。
より崇高な目標を持つ我が身であるか、自問しよう。

3.11を心に刻んで

3.11を心に刻んで 2019』岩波ブックレットNo.995。編者=岩波書店編集部 発行=岩波書店 2019 サイズ=210mm 112 ¥780 ISBN9784002709956
内容=20115月以降、約300名の筆者により毎月書き継がれているウェブ連載「3.11を心に刻んで」。これを毎年1冊にまとめて岩波ブックレットとして出版している。
   第1部が「3.11を心に刻んで」第2部が慰霊碑をたどる、と題した「河北新報」の連載企画。第3部が「3.11を考え続けるためのブックガイド」と題して池澤夏樹・金子勝・小出裕章・白石草・武田砂鉄・中村和恵・中村桂子以上7名が書いている。
感想=3.11の特徴は、地震と津波という自然災害と、ヒトの手によってもたらされた原発災害の、2種災害であることだ。
   岩波書店編集部の企画、毎年出す決心の『3.11を心に刻んで』に注目しつつ、ともに年月を刻んでいる。
   今号でも12カ月の11日が並んだ。各月の11日に3人が書いているから36編ある。
   ここには3年前、5年前の、と綴られてきており、今号では8年前の3.11が語られる。特に何年前の、と限定しているわけはないから、内容は様々である。
   8月に書いている安川誠二さん。北海道、アイヌについて語った最後に、文字を持たなかったアイヌは地名に、そこの地形の特徴を表す言葉を当てはめ、危険な場所を子孫に代々口承で伝えていった。と記す。
   9月の佐藤慧さんは津波で母を失い5年後に命の灯火が消えた父を思う、死と愛を噛みしめる切々とした筆致に涙が止まらない。こうして付箋をつけて行くとどのページにもついてしまう。
   我々の命には限りがある。一方、組織は不死身だ、岩波書店の編集部は不死身の力を使い、この先いつまでも続けていただきたい。
   第1部執筆のの36人中、1945年以前に生まれている人は、たったの1人だ、あとの全員は戦争後に生まれている。
   戦争体験がないので、大津波に襲われた惨状に対する受け止めようが、まさに初体験であると強く感じた。

本書への感想は、ここで終わり、あとは個人的な付け足し雑記である。
あの、三陸を襲った大津波の映像をテレビで見ていた、家が、車が、流される、蹂躙されるまま為すところもない濁流の中に、消防車も転がり流されてゆくのを見た、
その瞬間の感想……、この災害には消防車が役に立たない。パトカーだって救急車だって被害者だ。全てがやられてしまった。でも、日本の他の地域から、必ず駆けつけてくれるでしょう、消防車も、救急車も来てくれるでしょう。
そして、続いてこう思ってしまったのだ、「あの時」は、消防車そのものがなかった、パトカーも救急車も発明されていなかったし。テレビどころかラジオもない焼け野原。
いやはや、世の中変わったなあ。あの当時は「兵隊さん」なんかの姿があったら、何を命令されることやら、姿がなければほっとする、今はまあ、自衛隊の活躍がどれほどの助けをもたらしているものか、お風呂まで用意してくれるという。救援物資が送られる、おにぎりを、ただでもらえてる。

あの時は、と苦々しく思い返してしまう、あれほど強く隣組の結束が呼びかけられて、互いに助け合うようにと徹底指導されていたにもかかわらず、頼みにできるものは自分だけ。
あれは冷淡だったのではなく、体を保ってはいたが気持ちが潰れ切っていたのだと、今になって気づいている。だって、近所の誰さんたちが防空壕内で蒸し焼きになって死んでしまったと知っても、ぼんやりと聞き入っているだけで感情が動かなかったのだから。


やがて、この大津波の惨状を祖父母から聞いたことがある、という世代に移るだろう。記録を調べて知る時代になるだろう。
それでも、バトンタッチを繰り返して続けていただきたいと思う。
遠い将来に、大津波からの立ち直りは想像できるが、原発事故からの回復は、今現在の我々には考えられないことだ、そこを読みたい、津波は貞観とくくってくれても良い、福島が気がかりだ、続けてください。
人の命の長さとは尺度の違う怪物、放射能の行く先が不安で仕方がない、岩波ブックレットが灯し続ける炎に、小さな読者も燃料を持ち寄ります。
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