文房 夢類
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文房 夢類

中東エネルギー地政学

中東エネルギー地政学』副題=全体知への体験的接近 並列タイトル=Middle East Energy Geopolitics 著者=寺島実郎 発行=東洋経済新報社2016 サイズ=20cm 303 2000 ISBN9784492444313
著者=てらしま じつろう 1947年北海道生まれ早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。三井物産ワシントン事務所長・三井物産戦略研究所所長・日本総合研究所会長などを経て多摩大学学長。
内容=中東を中心に世界各地を巡り、ニューヨーク・ワシントンに10年住むなどして体感した視点に立ち、国内外の政治経済、外交、エネルギー政策、宗教などについて人生の歩みに沿って記す。
感想=早稲田から三井物産に新入社員として入社した、このスタートで置かれた場所が中東のエネルギー部門だったという。特に関心があり望んだのではない、与えられた場所から動き出した時点から、その地点での育自に励む姿が見える。三井物産という一企業のワクからはみ出して独立した存在へ飛翔する道程が時代の激変期と重なり劇的だ。この部分に素直で自然な心情が読み取れて魅かれた。
常に見つめるのが土地、その場所の歴史である。このポイントが地政学、体験的というタイトルにある。
大手の石炭会社勤務であった父は九州の炭鉱におり、実郎氏は母のお腹のなかで北海道の炭鉱へ引っ越したという。北海道の山奥から山奥へと転勤後、九州の筑豊へ。生まれる前からエネルギーと縁があり、土地を転々とすることになったこともご縁だろうか。振り返ると重なっていたとわかる不思議が見える。
中心部分の内容ではないが、シーア派とスンニ派の源についての解説が、よく理解できた。なぜ執拗に反目し合うのか。その原因が歴史展望と、その土地に時間を埋めたことによって掴んだもの、文字ではない部分を手渡して貰えたことによって腑に落ちたのである。
人が左右の手を持つように、国にも左右の思想が必要だし、双方に優れた人材が求められる。寺島氏は「心に残る理解者と支援者」の項目で各界人との交流を描き、「政治家では、宮沢喜一、福田赳夫さんの問題意識の高さと心の寛さに啓発されてきた。」と記している。寛容性と独立性を併せ持つ佇まいが、ここにある。

コーヒーもう一杯

コーヒーもう一杯』著者=山川直人(やまかわ なおと)発行=エンターブレイン200915巻セット BEAM COMIX サイズ128X182mm平均頁210 ISBN4757727305¥@650
著者=漫画家1962年東京出身高校卒業後フリーター生活で同人誌活動、漫画家を目指した。これは一昔前の純文学青年と重なる生き方に映る。商業誌で活躍する一方、自費出版の作品発表、同人誌活動も続けている。作画は隅々まで綿密な手書きで強烈な特徴を持つ。
内容=コミックビームに連載した作品。一話完結。1冊に12話。全巻モノクロ。目次の前の頁にカラーの一枚絵。
感想=タイトルは、Bob Dylan1976年にリリースしたアルバムDesireに収録されている曲、One More Cup of Coffeeからとっている。ディランの曲を聴きながら描いている、とあとがきに書いているが心底ディランのファンで、いくつも好きな曲名をタイトルに使っている。
ボブ・ディランはもてはやされて有名で、誰でも知っている、そういう人ではない。この作品を書いているころ、著者も出版社も、まさかノーベル賞を受賞する歌手とは夢にも思わなかったろう。
ディランは、日本で言えば「平家物語」を琵琶を抱いて歌う坊主、西洋では「オデュッセイア」を語るホーメロス、あるいはジプシーの辻歌いなどの原点とつながる吟遊詩人だと思う。このコミックの帯に編集者が山川直人を「漫画界の吟遊詩人」と表現したとき、ディランを思い浮かべていたとは想像しにくい。人間の感性とは、なんという凄さだろう。
体質が同類であるのだろうが、もう一つ、ディランは創作者を惹きよせるフェロモンを発散する作家なのだ、ということがある。どこが、なぜ? そんな芸術論を話し合える人に会いたいと思う。
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話ごとの感想となるときりがない。  こんな感じかな。
ん。いい……
いいよ、これ。

でしょ。
まるで一杯のコーヒーじゃないか、一話、一話が。
なかなかのブレンドなんだ、お代わりするの、もったいない。
毎晩、一杯、いいね。

見返しの次のページ、目次の前にカラーの絵がある。
原画のサイズがわからないが、美術展に出ていたら引き寄せられる、実にすばらしい絵だ。ゴッホ、ルオーを思う、そういう味わいだ。ファインアートも文学も、すべて体内に抱え込んでいるのが見える。こういう作家が漫画フィールドで活躍していることは、文学に拘泥している側から見ると恐怖感に似た衝撃を覚える。
例えば「雨の日の女」。これもRainy Day Women 1966 のタイトルだが内容は関係ない。
昔の女が雨の夜、コーヒーショップに現れる。マスターがコーヒーを淹れる。二人の過去、そして今。逆巻く思い。無口な男の心情が絵になる、コーヒカップを置く時の擬音文字が音となって頁から噴きあがる。 

バナナの歴史

バナナの歴史』(食の図書館シリーズ)著者=ローナ ピアッティ ファーネル Lorna Piattii-Farnell 訳=大山晶 原書房 2016年発行 ISBN9764562053275 サイズ=19cm ¥2376
著者=ニュージーランド、オークランド工科大学大衆文化研究所所長。執筆を依頼されて大喜びしたそうで、バナナのことなら知っている、と思い書き出したら、知らなかったことが続々と出てきたという。
内容=これは「食の図書館シリーズ」の中の一冊で、多くの果物や、コーヒーを始め、食材を取り上げている。本書バナナでは、歴史、伝説から始まり、バナナの種類、産地について、また料理のいろいろなどが集められている。
感想=カラー写真がたくさん出ている。歴史の章では、バナナプラントで起きた大虐殺事件も取り上げているが、その事実にとどまらず、ガルシア・マルケスの小説『百年の孤独』の中にも取り上げられていることも記されている。バナナの広告ポスター、おもちゃ、絵画。ルノワールが描いた「バナナ畑」の絵もカラーで出ている。キリコの描いたバナナも出ている。キリコが描いたらどんなバナナになるだろう、と思ったが、実に普通の写実的なバナナだった。どんなに絵が下手な人でも、バナナを描いてバナナに見えないことはない。その点だけでもバナナは賞賛されて良いのではないかしら。バナナの歌も出ていて、全ページにわたって楽しい。
ひとつ、書かれていない事柄があった。それは農薬についてのことで、最も知りたい部分だった。日本には芭蕉は育つが食用バナナは生産できない。すべて輸入である。バナナは船で運ばれて日本の港に着くが、到着した時は緑色の未熟なバナナである。市場に出す日を計算して熟成させる仕組みだ。船で運ばれてくる間に熟してしまわないように薬品で調節しながら運んでくるのである。これは温度調節だけでは不可能だという話を聞いている。さて、このことが事実であるのか、事実とすれば、薬品名は何か。この薬品がバナナに残留しているということも聞いているが、バナナの、どの部分に、どれほど残留しているのか、確実なことを知りたかったのだが、全く言及されていなかった。著者は文化面にだけ目を向けているのだろうか。
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