食の終焉
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食の終焉
』副題=グローバル経済がもたらしたもうひとつの危機 (THE END OF FOOD) 著者=ポール・ロバーツ (Paul Roberts)訳=神保哲生(じんぼ てつお)ダイヤモンド社 2012年発行 ¥2800 541頁 128mmX187mm ISBN 978-4-478-00747-1
著者=年齢不詳。個人情報はワシントン在住とのみ。ジャーナリスト。主著に「THE END OF OIL 2004」
訳者=1961年東京生まれ。ジャーナリスト。
内容=現在の「食」供給の姿を描く。地球規模で需要と供給が錯綜しつつ破綻に向かって押し流されつつある現状と、その問題点を考察する。先に読んだ『戦争と飢餓』は、食の問題を戦争という局面から見た著作だったが、本書は、食の問題を産業化した生産現場と流通の面から見ている。
感想=たとえば、あらゆる匂いを合成できること、添加物のこと、あるいはフォアグラなどのように、動物虐待による食の楽しみなど、数多くの知識を蓄えていたつもりだったが、本書内で、私はなんども腰を抜かし、のけぞった。牛、豚、鶏。主にこの3種が自然を冒涜するにもほどがある、という言語に絶する行いによって生産されている現状、いまや個人の力では動かしがたいサプライチェーンの網の目にはまっていて、価格競争と市場競争とあいまって、先へ先へと動いてゆくしかない有様が記述されている。
著者は、地球全体をまわり、生産者や経営者に直接会い、取材をしている。この精力的で、根気の要る取材が強い説得力を持って迫る。最後に彼は考える、結局は消費者が1円、1セントでも安い食を望むところから始まっているのだ、まわりまわって悪いのは消費者だ。これからの食糧危機は、海からの供給を視野に入れるべきだ、魚だ、と結論づけている。
PSEという初耳の略語を例にとってみよう、Pはpaleで、肉色が淡い、Sはsoftで、組織が柔らかい、Eはexudativeで、水っぽい。産業用ブロイラーは、遺伝子学の進歩で、内蔵、肉などを全面的に改良されて鶏肉マシンと化しており、40日で屠殺できる。しかし如何様に改良されても生き物なのだ、殺されるショックで身を震わせるのだそうだ、そのときに細胞の老廃物である乳酸を大量に筋肉組織に排出する。この乳酸が肉のタンパク質を変質させて、結果、肉質がPSEとなる。食品会社は、この欠点を安価に解決、すなわち、塩とリン酸塩を肉に注入して保水性を高めて出荷している。この操作によって、店頭の鶏肉は美味しそうな色の、しっかりした肉質の鶏肉に見えるのだが、実は肉の販売重量は、この注入によって10%から30%増えているという。
今日はスーパーのセールよ、と喜んで買っている鶏肉が、まさしくこれなのだった。いったい、これからの地球はどうなるのだろう? 水の惑星、青い地球は干涸らびた屍となって太陽のまわりを巡るのではなかろうか。人口爆発と飽食と飢餓の同居する社会、早晩枯渇する資源、水。
著者と訳者(あとがきで)は、声を揃えて1円でも安い価格を望む消費者に罪を着せているが、これでは解決にならない。私が思うには、この瞬間からできることから始めるべきで、それは食べられるものを絶対に捨てない、ということだ。食べ残しをしないことだ。これができるかどうか。