世界遺産にされて富士山は泣いている
23-10-14-11:04-
『世界遺産にされて富士山は泣いている』著者=野口 健(のぐち けん)発行=PHP研究所 2014年 ¥760 サイズ 新書版 232頁 ISBN9784569820040
著者紹介 〈野口健〉1973年アメリカ生まれ。亜細亜大学卒業。亜細亜大学客員教授などをつとめる。99年エベレスト登頂に成功、7大陸最高峰世界最年少登頂記録を樹立。著書に「落ちこぼれてエベレスト」など
内容=富士山が「条件付き」で世界文化遺産に登録されたことを、多くの日本人は知らない。富士山の清掃活動に尽力してきた著者が、富士山のゴミ問題、小笠原諸島などの成功例、入山規制のあり方、質の良い観光等について語る。
感想=野口健氏が富士山のゴミについて書いた本を「新刊旧刊」で取り上げたことがある。これもゴミが主役の、富士山を愛する本。
私は、山中湖畔に2年間住んでいた間に、ゴミ拾い大好きな私が見たこと、経験したことが、彼の行動のミニ版だったと気がついた。たとえば、ほんのちょっと、浜に青色の切れ端が見える。ゴミ袋を引きずりながら私は、その10センチくらいの切れ端を引っ張る。山中湖畔の砂地は崩れて、1メートル以上もあるブルーシートが現れる。しかし、私に出来るのは、ここ止まりだったのだ。この先は引いても動かない。砂の下に、なにか大きな重い物が包まれて埋まっていて、よいこらしょ、と引いたくらいでは、びくとも動かない。ゴミ。故意に捨てられたゴミ。野口さんは、富士山麓の樹海でゴミ拾いではない、「ゴミ堀り」をされている。2013年秋の清掃で、静岡県側の林から1800本の古タイヤが出てきたという。
富士山の五合目から上はきれいになった、と野口さんは、今までの努力を振り返る。その通りだろう、しかし。足もとを見れば煙草の吸い殻が、幾つも目に入るのが現実だ。きれいな空気の富士山に登ってきて、どうして煙を吸いたいのか? 愛煙家は、こんな疑問をぶつけられたら、分かっていないな、と笑うだろう。しかし私は、煙草を吸ったことがあるのだ。その上で言うのだが、きれいな空気ほど美味しいものはない。彼らの肺胞はタールで汚れ、汚れた心で富士山腹に吸い殻を捨て去る。
五合目には、上から集めてきた膨大な量の空き缶が、大きなネットの袋に集められて、山と積んである。ここまでは手作業で集めてくる。あとは車で下ろすのだが、五合目で佇んだ人ならわかるだろう、ときに強風が襲う標高2400メートルの山腹である。その風は、空き缶の大袋を、まるで1個の空き缶のように軽々と転がして飛ばしてしまうのだ。
なんで、富士山の上に自販機が必要なんだ! 日常以上 に飲み食いを楽しみながら富士山銀座通りを、物見遊山気分でほっつき歩く必要があるのか! トイレの問題。ゴミの問題。夜間の弾丸登山の問題。
富士山には、それこそ富士山ほどに山積みされた難題がある。この富士山の根っこには、御師(おし)の歴史がある一方、親分子分の習わしが厳然としてあり、いまの社会に生きて機能している。これは本書にはないことだが、目をそらさずに見つめなければならないと思う。
本書の輝く目玉は、富士山を守るアイディアで、それは富士山登山鉄道の開設である。スバルラインとスカイラインを鉄道にして、自動車は一切止める。五合目までの長い距離の樹木が救われるし、ここに捨てられるゴミも、減るに違いない。良い点は、年間を通して五合目まで行かれること。この案を、ぜひ実現させて富士山を守りたい。
著者紹介 〈野口健〉1973年アメリカ生まれ。亜細亜大学卒業。亜細亜大学客員教授などをつとめる。99年エベレスト登頂に成功、7大陸最高峰世界最年少登頂記録を樹立。著書に「落ちこぼれてエベレスト」など
内容=富士山が「条件付き」で世界文化遺産に登録されたことを、多くの日本人は知らない。富士山の清掃活動に尽力してきた著者が、富士山のゴミ問題、小笠原諸島などの成功例、入山規制のあり方、質の良い観光等について語る。
感想=野口健氏が富士山のゴミについて書いた本を「新刊旧刊」で取り上げたことがある。これもゴミが主役の、富士山を愛する本。
私は、山中湖畔に2年間住んでいた間に、ゴミ拾い大好きな私が見たこと、経験したことが、彼の行動のミニ版だったと気がついた。たとえば、ほんのちょっと、浜に青色の切れ端が見える。ゴミ袋を引きずりながら私は、その10センチくらいの切れ端を引っ張る。山中湖畔の砂地は崩れて、1メートル以上もあるブルーシートが現れる。しかし、私に出来るのは、ここ止まりだったのだ。この先は引いても動かない。砂の下に、なにか大きな重い物が包まれて埋まっていて、よいこらしょ、と引いたくらいでは、びくとも動かない。ゴミ。故意に捨てられたゴミ。野口さんは、富士山麓の樹海でゴミ拾いではない、「ゴミ堀り」をされている。2013年秋の清掃で、静岡県側の林から1800本の古タイヤが出てきたという。
富士山の五合目から上はきれいになった、と野口さんは、今までの努力を振り返る。その通りだろう、しかし。足もとを見れば煙草の吸い殻が、幾つも目に入るのが現実だ。きれいな空気の富士山に登ってきて、どうして煙を吸いたいのか? 愛煙家は、こんな疑問をぶつけられたら、分かっていないな、と笑うだろう。しかし私は、煙草を吸ったことがあるのだ。その上で言うのだが、きれいな空気ほど美味しいものはない。彼らの肺胞はタールで汚れ、汚れた心で富士山腹に吸い殻を捨て去る。
五合目には、上から集めてきた膨大な量の空き缶が、大きなネットの袋に集められて、山と積んである。ここまでは手作業で集めてくる。あとは車で下ろすのだが、五合目で佇んだ人ならわかるだろう、ときに強風が襲う標高2400メートルの山腹である。その風は、空き缶の大袋を、まるで1個の空き缶のように軽々と転がして飛ばしてしまうのだ。
なんで、富士山の上に自販機が必要なんだ! 日常以上 に飲み食いを楽しみながら富士山銀座通りを、物見遊山気分でほっつき歩く必要があるのか! トイレの問題。ゴミの問題。夜間の弾丸登山の問題。
富士山には、それこそ富士山ほどに山積みされた難題がある。この富士山の根っこには、御師(おし)の歴史がある一方、親分子分の習わしが厳然としてあり、いまの社会に生きて機能している。これは本書にはないことだが、目をそらさずに見つめなければならないと思う。
本書の輝く目玉は、富士山を守るアイディアで、それは富士山登山鉄道の開設である。スバルラインとスカイラインを鉄道にして、自動車は一切止める。五合目までの長い距離の樹木が救われるし、ここに捨てられるゴミも、減るに違いない。良い点は、年間を通して五合目まで行かれること。この案を、ぜひ実現させて富士山を守りたい。