文房 夢類
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戦後思潮

戦後思潮 知識人たちの肖像』著者 粕谷一希(かすや かずき)  発行 藤原書店 2008年 ISBN 978-4-89434-653-6 C0030 ¥3200E 148x198 P400
著者は1930年東京生まれ。「中央公論」編集長をはじめ、編集、出版事業に関わる。現在は評論家。著書『中央公論社と私』『河合栄治郎ー闘う自由主義者とその系譜』『作家が死ぬと時代が変わる』など多数。
本書は30年前に書かれたものの復刊。見開き2頁で1回分の連載だった戦後思想史を12章にまとめたもの。復刊の言を、御厨貴が書いている。「ここに出てくるような知識人の書物を新古典と言っています。いわゆる古典ではないが、すぐに消え行く新刊書でもない。平成生まれの若者に対しては、この新古典の読み方を考えていかなくてはいけない」
私は意外に感じた。戦後を生きて今に至る者たち、ここに出てくる知識人と並走して現在に至る読書人たちのために書かれたか、と読んだのだった。近過去をまとめてみれば、このようであるか、という思想の流れが見える。高村光太郎、川端康成、小林秀雄、近衛文麿、石原莞爾、吉田茂、三木清、南原繁、太宰治……。索引があるが、天空の星のように並んでいる。
この精力的な編集者の目には凄さがあり鋭くもあり、そして言うに言われぬ含みを持つ。
嬉しかったのは、小泉信三の著書のうち『海軍大尉小泉信吉』をとりあげて名著とし、その節度ある姿勢の影に秘めた息子への愛情に、打たれぬ読者はいない、と書いていることだ。父性は、ここにあった。その後、父性はながいあいだ喪失した。
本書は読書人にお勧めの1冊であるが、若い人たちに開いてもらいたい本がたくさん織り込まれている。しかし、粕谷さんは個性が強いので、見方が個性的に過ぎるきらいがあり、多読をしてきた読者には、その点が面白いのだが、無垢の若者には、もっと無色の紹介文のほうが望ましいと思う。
もうひとつ、まあ、なんと男性ばかりが並んでいることか、と気がつきました。サブタイトルの中に、中野重治の下に宮本百合子の名を見つけただけ。無理に拾い上げて数合わせをしてもらっても、それは無意味なことであり、実際に少ないのだから、これが現実、これがありのままの姿なのである。もともと日本人は、男女の上下を作らないできたはず、縄文の昔は、そのようであったにちがいない、というのが私の見方なので、素直に、自然に、このような姿なんだと思っている。よい作品があれば、女が書こうが男が書こうが大切に扱うことは『源氏物語』をみればわかることだ。
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