文房 夢類
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文房 夢類

アメリカの中のヒロシマ

アメリカの中のヒロシマ』HIROSHIMA IN AMERICA 著者=Robert J. Lifton and Greg Mitchell R.J.リフトン G.ミッチェル 訳=大塚 隆 発行=岩波書店 1995年 128X187mm 上下巻 各P235 各¥2400 ISBN4000000683
著者=R.J.リフトン=1926年ニューヨーク生まれ。精神医学・心理学者。ハーバード大学東アジア研究所等を経てニューヨーク市立大学教授。著書『死の内の生命ーヒロシマの生存者』『思想改革の心理ー中国における洗脳の研究』他
   G. ミッチェル=1947年ニューヨーク生まれ。ジャーナリスト。「ニュークリア・タイムス」誌元編集長。
訳者=1947年生まれ。京都大学工学部卒。朝日新聞者入社。アメリカ総局員、ワシントン取材などを経て東京本社科学部次長。(以上、出版当時)
内容=アメリカの側から見たヒロシマ・ナガサキはどのようなものだったか。悲惨な歴史的事実を、どのように受けとめ、向き合ってきたのか。歴代大統領・歴史家・退役軍人・ジャーナリストらの心の内へ迫る。
精神医学の専門家ならではの視点と分析が盛り込まれる一方、ジャーナリストのフットワークを駆使して活写するスミソニアン博物館の原爆展周辺の人間模様は圧巻。
感想=先に読んだダニエル・エルズバーグの『
国家機密と良心』の中で、少年エルズバーグがこの本に泣き、読んでみて、と父に手渡したエピソードがあった。アメリカの側から見た海外のヒロシマか、アメリカ大陸の中のヒロシマか。
図書館では借りる人が少なくなったために書庫にしまわれていたのを貸してもらった。かれこれ25年前の本。上下2巻、巻頭に主要登場人物が顔写真とともに掲載されている。この人々を紹介するだけで十分、広島の原型が見えてくる。
アインシュタイン、アイゼンハワー、オッペンハイマー、トルーマン、ルーズベルトなどはよく知られた人物だが、ノーマン・カズンズ(核兵器に批判的な立場を貫いたジャーナリスト)J,C.グルー(外交官。太平洋戦争勃発時の駐日大使。トルーマンに日本への降伏条件を緩めるよう進言、原爆投下に強く反対)L.R.グローブズ(陸軍将軍、軍のマンハッタン計画の最高責任者。オッペンハイマーら科学者を指揮、原爆を開発。日本への原爆投下を強く推進)J.B.コナント(化学者。ハーバード大学長。科学者を組織し、マンハッタン計画を推進。戦後は、原爆投下の正当化に全力をあげた)L.ジラード(物理学者。マンハッタン計画に参加。原爆投下に強く反対。核廃絶運動を推進)H.スティムソン(大戦当時の戦争長官。都市への無差別爆撃に抵抗、京都への原爆投下に強く反対したが、戦後に原爆投下擁護論文を発表)M.ハーウィット(前国立スミソニアン航空宇宙博物館長。大戦終結50周年に、爆心地の再現を含めた大規模な原爆展を企画。議会、退役軍人の圧力で挫折、辞任)W.L.ローレンス(科学ジャーナリスト。マンハッタン計画のスポークスマンとして投下の正当性に力を尽くした)などなど。
70年余りものちのいま、当時の仔細な記録と分析を読むことに意味があるのか。それは読んでみて初めて胸に落ちた、今現在の世相、今現在の政府各人の動きようとの、恐ろしいまでの共通性を噛み締めたのだった。
それでは今、どうしたら良いのかを考える下敷きにすべきではないか。
一口で言ってしまえば単純で簡単なことなのだと思う。それは、嘘をつかないこと。隠さないこと。もう一つは、どんな意見も無視してはならないこと。どんな人の考えも、思いも、圧殺してはいけないこと。
こんなことは一般家庭で守る、あたりまえの簡単な事柄ではないか。イザコザが絶えない家には、決まって嘘つきがいたり、これは誰ちゃんには黙っててね、と隠し事をする奴がいたりするものなのだ。同じことだ。
戦争前夜、戦争中、戦後の混乱期、ここには隠し事、ごまかし事、気に入らない考えを圧殺する事などが溢れかえっている。
この、一握りの者が引く設計図を見ることもできない、ただの道具として左右されていた人々の生の声も、ここにある。原爆投下を知った途端に揃って泣いた若者たち。これは沖縄上陸作戦寸前の運命にあった兵士たちだ。死なずに済んだ、家へ帰れる喜びの涙。
米国の被爆者については、この本で初めて知った。アメリカ西海岸に千人以上の被爆者がいることを、どれだけの日本人が知っているだろう。大部分は、親類を訪ねたりして広島に閉じ込められて被災した人たちだ。広島では数百人の日系アメリカ人が死んでいる。アメリカの被爆者たちは、生き延びてアメリカへ戻ることができた人々だが、日本の被爆者よりもさらに困窮している。無料医療給付を受けていない。日本もアメリカも、それぞれの理由や思惑があり、ボールを取り落とした形だ。
ダニエル・エルズバーグが、なぜ内部告発へと気持ちを進めていったか。それが本書を読むことで理解できた。
嘘をつくな、隠し事はするな、そうすれば平和への階段が見えてくる、そう言いたかったに違いない。そうじゃない、世の中、そんな甘いもんじゃないさ、とあざ笑う利口な人たちは、実は地獄への穴を自ら掘っているようなものだと思う。
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