文房 夢類
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文房 夢類

ピュリツァー賞受賞写真全記録

ピュリツァー賞受賞写真全記録』moments:The Pulitzer Prize-winning photographs 著者=ハル・ビュエル Hal Buell 序文=デービッド・ハルバースタム david halberstam 訳=河野純治 発行=日経ナショナル ジオグラフィック社 2011年 ¥3800 サイズ=190X226mm 320頁 ISBN9784863131415
著者=ハル・ビュエル シカゴで育つ。元AP通信写真部門責任者。ノースウェスト大学でジャーナリズム専攻、カメラマンを経て1956年にAP通信社入社。35ヵ国を訪れて20世紀後半の世界的事件の写真報道に関わった。
序文著者=D・ハルバースタム 1934~2007 アメリカのジャーナリスト。NYタイムズ紙の記者としてベトナム戦争を取材。これにより1964年ピュリツァー賞受賞。政治・企業・メディア・戦争などの分野で、ニュージャーナリズムの旗手として活躍した。
内容=1942年から2011年迄の受賞作品全記録。5部構成で、1期=大判カメラの時代 2期=カメラの小型化 3期=特集写真(複数枚)の賞が加わる 4期=カラー写真時代の始まり。女性写真家が現れる 5期=デジタル革命と題して、2003年以降をまとめている。
感想=写真は、どれもすべて固唾をのむ凄さだ。そして、同じ重さと衝撃で心に響いてくるのが、この二人の文章である。この序文は繰り返し読み、共に考えるための輝くケルンだ。この文章から著者の人格、魂が、彷彿として浮かび上がり、読む人にその精神が伝えられる。本文の各写真に組み込まれるハル・ビュエルの文は、各年度の受賞作品の解説と撮影データだ。
読んで写真を見、ふたたび読む。ここに過酷な現場のカメラマンたちの姿と精神が立ち上がってくる。ハートでシャッターを切っている、と伝わってくる。この文章がなかったら? 目の前のページの映像だけで終わっていただろう。愛を込めて、尊敬を込めて、写真からはみ出して写っていないシーンまでも存分に届けてくれる文章だ。
「日本人ジャーナリストの死」というタイトルでミャンマーでの銃撃シーン、長井健司さんがカメラを握ったまま倒れている写真が出ている。2008年ニュース速報部門受賞作品。撮影者はロイター通信のアドリーヌ・ラティーフ。読んではじめて、そうだったのか。とため息をついた。この時々刻々の動きは、はじめて知る、きわめて詳しいものだった。
女性写真家についての記述は、第4期に書かれている。1990年代に3人の女性写真家が受賞したことをビュエルは、次のように書いている。
「これらの女性写真家たちは、報道写真に必ずしも新しい視点を導入したわけではない。その写真や、取材したテーマを見ればわかるように、彼女たちは、男性写真家とまったく変わらぬすぐれた写真を生み出すプロのジャーナリストである。」このあとに具体例の解説が続くが、これまでもいま現在も、女性の成した仕事を評価する形容詞が、”女性らしい視点”的なものである周囲を見渡し、改めてハル・ビュエルに尊敬と賞賛の念を深くした。このような評価に値するような仕事を、世界中の各所の女性たちが生み出しますようにと願わずにはいられない。
それはさておき、なぜこれほどまでに、闘いの場面、悲惨な場面が多いのだろう? この優れた賞の未来に、幸せな光に満ちたシーンが現れることを祈りつつ、全記録を見続けて行きたい。


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