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歌丸ばなし

歌丸ばなし』著者=桂 歌丸(かつら うたまる)発行=ポプラ社 2017年 ¥1200 245頁 ISBN9784591156339 サイズ=19cm
内容=江戸を舞台にした人情話、滑稽話を8席収録。各噺の後に、裏話などを含めた随筆が載っている。
感想=日曜日の夕方に15分間放映する「笑点」で、長い間親しまれてきた歌丸師匠の語りが、読んでいるうちに声となって聞こえてくる。落語は寄席に行って聞くのが一番だけれど、読むうちに声が聞こえてくるような錯覚に陥る本。
嬉しいのは初っ端から生粋の東京弁であることだ。ありがたい、嬉しい、と涙が出る。全く、見事に一本、筋の通った江戸前である。ありがたい、宝である。リズミカルで調子良く、スッキリ流れるうっとり感、下世話な話でも品があります。私は汚いのが大嫌い。
最近のこと、円朝全集を買って暇暇に読んでいる。これはまた見事で日本の宝ですが、情けないことに私には手の届かないところがたくさんある。学ぶところがふんだんにあります。
良かったのは、「噺のはなし」という題で、それぞれの話の後に書いている随筆。ここに裏話や、解説などが書かれている。元の話はこれこれだが、サゲを変えた、ということなどが書かれている。これは一種の創作談義ともいうべきもので、読みようによっては重要な鍵が各所にある。
師匠はこう書いている「落語は、サゲを言いたいためにやっているようなところがあるんです。サゲをどうするかしょっちゅう考えますが、机に向かっていざやろうとしたって、まずできません。風呂に入ってぼーっとしている時とか、トイレに入っている時とか、ふいと出てくることがある。」
これを読んで、アガサ・クリスティを思い出した。クリスティが同じことを書いていて、料理をしながら考える、というのは私はできません。(アイディアを)思いつくのはお風呂に入っている時……。
これは確かにその通りで、ぬるめのお風呂に首まで浸かっている時が最高だと、私も思います。お料理は、テレビを横目で見ることはあっても、頭を他に使うことは無理ですね。
また、歌丸師匠は、こうも書いている、「芸は人なり」と言いますが、芸の中に演じ手その人が出るものです。人情味があれば人情味のある芸ができるし、薄情な人間には薄情な芸しかできません。同じ噺でも、そこで大きな差が出るんじゃないかと私は思っています。(引用ここまで)
作者の人柄と作品という話だが、これには強く同感します。
ここから話題が小説に移ってしまうのですが、小説でも同様と感じます。技術は必要、技術が無ければどうにもなりませんが、かといって技術が優れているだけでは、どうにもならない。
これは音楽でも絵画でも同じじゃないかと思います。以前、佐藤しのぶさんが、歌を歌うということは自分をさらけ出すことで、裸になるより恥ずかしい、と書いていられました。ただの裸なら、服を脱いだだけのことですが、裸になるより、もっと裸ということは、内臓まで、まさに五臓六腑まで露わになるということですから。だからこそ、受けて聴き、受けて観、受けて読みして、我が五臓六腑に染み渡るのですものね。受ける側の心が動くって、生半可のことじゃない。
受け手とは随分なわがまま者だと思います。私自身を受け手として、そう感じます。例えば往年の名歌手、美空ひばり。聞き惚れて胸に染み渡るひばりの歌は、ちょっとやそっとのものじゃない、非の打ち所もない。と、わかっていても私にとってはお付き合いのない家の庭石としか言いようがない。
それは内臓まで聴こえるからで、その五臓六腑が私とは接点のない、縁のない世界の肌あいだからです。で、わがままな私は、なかなか肌の合う歌手に巡り会えないので、いますけれど次々には現れないので、初音ミクがいまのお気に入りとなっている次第。
小説となると、読み手の読む力が問題で、力量のある読み手が少ないために難しいのですが、本質は歌丸師匠の言葉そのもの、それ以上でも以下でもない、そっくりその通りと思います。噺家でも、歌い手でも、演奏家でも、描き手、書き手でも、その人がどう生きているか、にかかっている。
性根の曲がったやつは、どう書いたって曲がってる、それでも買う奴がいるのは、同じ根性のやつらが大勢いるから。貧相な人は、富豪を書いても貧相さが出る。すぐれた作品だから評価しているのではなく、作家の内臓の部分に共鳴するのです。
若い人たちはむしろ、経験が浅いだけに感覚が新鮮で、持って生まれた嗅覚によって見分ける力を発揮します。だから、若者が読みかけで放り出したとしても、放っておいたほうが良い。根気がないのではないかもしれません。ある程度の年齢になっても噂を頼りに本選びをするような者は、読んでも読まないでも同じの人たちでしょう。
噺家で、お名前が、ちょっと出てこなくて申し訳ございませんが、こういうことをおっしゃっていられます、「広い世間にたった一人、おれの芸をいいといってくれる人がいる。それを目当てにする。所詮それがこの商売の真実だ」




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