文房 夢類
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ニルスのふしぎな旅

ニルスのふしぎな旅』NILS HOLGERSSONS UNDERBARA RESA GENOM SVERIGE 発行=福音館書店2007年 著者=セルマ・ラーゲルレーヴ Selma Lagerlof 訳=菱木晃子 上下2巻 サイズ=21cm 上巻=515頁下巻=534頁ISBN9784834022735¥2300@
著者=スウェーデン生まれ(1858〜1940)ストックホルムの師範学校卒業後、教職に就く。1895年より作家活動に専念。
1909年ノーベル文学賞受賞 女性初の授賞である。作品に本書をはじめ『ポルトガリヤの皇帝さん』『モールバッカ』など多数。
訳者=(ひしき あきらこ)1960年東京都出身 慶應大学卒業後スウェーデン・ウプサラでスウェーデン語を学ぶ。児童書翻訳
内容=14歳の少年、ニルスは怠け者で、小動物を虐める困り者。あるとき妖精にいたずらを仕掛けたために、小人にされてしまった。小人のニルスはガチョウのモルテンの背に乗り、ガンの群とともにスウェーデン中を旅してのちに帰還する55章の物語。
この物語の企画は、スウェーデン国民学校教員協会の読本作成委員会から地理の読本を書くよう依頼されたもの。各地を念入りに取材したと言われる。
感想=上下巻合わせて千頁を超える長編。昨年から私は、ノーベル文学賞受賞の女性作家を辿っているので、女性初の受賞者として注目して読んだ。
スウェーデンの地形、村落が、空飛ぶ鳥の背中から見下ろすニルスの目を通して描かれる。数々の冒険をしながら、両親の悩みの種だったニルスが、大きく成長してゆく。山火事、嵐、極寒の湖に翻弄される自然の姿と、産業革命が北欧諸国に及んだ時期であり、製鉄所や銅山、目の下を汽車が走る様子も充分に描かれる。同時に、土地の植物、動物たちがふんだんに登場する。
行く先々で出会った人が語る小話が織り込まれており、それは伝説だったり、ついこの間の出来事だったりする。ガチョウのモルテン、ガンの群の女隊長アッカたちとの深い友情、イヌワシのゴルゴや悪キツネのスミッレとのつきあいは、ニルスの心を大きく成長させてゆく。右か左か、さあ、どっちを選ぶか? と追い込まれたニルスが、裏切りを選択できず、苦しみに耐えて誠実な道を選んで進む。
ひとつ羽衣伝説に似た話があった。老人が語るバルト海の漁師の話。アザラシの群が中州を目指して泳いできた。漁師が鎗を構えたが、中州に上がった群は美しい娘たちだった。緑色に光る絹のドレス、真珠の冠。漁師は脱ぎ捨ててあったアザラシの皮を1枚隠す。
子ども向けの物語の衣を着ているが、随所に死生観、友情論、著者自身の思いや人生途上のいきさつなども織り込まれている。
肉づきの豊かな、太い骨格の、大柄な女性、そんな印象を持つ堂々とした作品。

作品とは関係ないが、この作品がスウェーデンの作家による、スウェーデンを舞台にしたものという点に注目した。日本には出羽守(でわのかみ)が大勢いて、外国へ出掛けていって帰国すると、出羽守になる人が多い。アメリカでは、スウェーデンでは、という具合に日本と比較して見せるのである。出羽とは越後国に設置された出羽郡のことで、和銅5年に出羽国となり、陸奥国と並ぶ北の国であった。いまは、語呂合わせで使われているが。
最近は、スウェーデンでは、と引き合いに出す人が多い。年金問題や消費税についてお手本にしたがったり、未来予測として観察したりする。しかし、ニルスの旅を読んで見て、この国については、出羽守の出番はないのではないか、と思った。
とにかく昔っから豊かなのである。地下に、いろいろ詰まっており、掘り出せば換金できるのである。民話にも語られる宝だ。
日本では、掘ったって温泉と地熱くらいじゃないか。スウェーデンの地下資源は豊かだ、裏庭に大きなお蔵を持っているようなものだ。お蔵から出して外国へ売りつければ良い。日本では墓石も買っている。外面だけをみて出羽守をするのは考えものです。
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