文房 夢類
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チャップリンとヒトラー

チャップリンとヒトラー』副題メディアとイメージの世界大戦 著者=大野裕之(おおの ひろゆき)発行=岩波書店2015年ISBN9784000238861 210mm 293頁主要参考文献・注記 ¥2200
著者=1974年大阪生まれ 日本チャップリン協会会長・劇団とっても便利代表
内容=イギリス出身の映画俳優他のチャールズ・スペンサー・チャップリン(Charles Spencer Chaplin)と、ドイツの政治家アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)を対比させつつ、映画「独裁者」をめぐり、多くの資料を披露して語る。
感想=この二人の有名人は、出身国もちがい、一度も顔を合わせたことはなかったが、おなじようなちょび髭を蓄え、わずか4日違いで生まれて同時代を生きた。五分五分に対比させているのではない、ヒトラーは引き合いに出されている程度である。著者の眼目はチャップリンの映画「独裁者」にあり、巻末に「独裁者・結びの演説」として、あの有名な演説の全文を載せている。
1940 年6月に、フランスがドイツに降伏、ヒトラーが意気揚々とパリに足を踏み入れたとき、チャップリンは、ハリウッドで「独裁者」のラストシーンを撮影していたという。すでにテスト撮影は何回かされており、その内容は、ドイツ兵が武器を投げ捨て、ユダヤ人たちと踊っているというものだった。しかしチャップリンは不満で、かわりに6分間に及ぶ演説を入れた。演説入りの決定版は、関係者の間で非常な不評を呼び、脅迫まであったという。これを世に出したら興行収入が100万ドル減る、と猛反対されたが、彼は「500万ドル減ってもかまうものか」と言って、反対して動かないスタッフを追い出したという。こうしたエピソードを知ることができるのは、日本チャップリン協会という組織があり、会長さんが書いてくださったからに他ならない。
ヒトラーが、あれだけドイツの民衆の心を掴んだのは彼の演説力にあり、彼の声、身振り、言葉の端々に、聴衆は酔いしれたのだった。たがいに会うことはなかった二人は、別の場所で、それぞれの演説をしたのだった。いま、「独裁者」の演説を読んで感ずることは、一方の演説は死に絶え、一方はというと、今も古びるどころか輝きを増して生き続けているということだ。両者の対比は、意味あることだった。
ついでに一言。本書には、チャップリンとヒトラーの名が、まともに出ていない。内容のところで私はこの二人の名を書いたが、これは私が調べて出したものであり、本書にはカタカナで、チャップリン・ヒトラーとのみあるだけであった。これは、この二人に対して失礼なことだ。
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