文房 夢類
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文房 夢類

めぐみと私の35年

めぐみと私の35年』著者=横田早紀江 発行=新潮社2012年 192頁 128X187mm ISBN9784103327615 ¥1200
著者=よこた・さきえ 1936年京都府生まれ 1962年滋さんと結婚、64年にめぐみさん、4年後に男の双子を恵まれ、銀行勤務の夫の転勤で国内各地に住んだ。横田さん一家が新潟に住んでいた1977年、当時13歳のめぐみさんが失踪。手がかりなく20年。1997年に北朝鮮に拉致されたと判明。1997年から2007年まで「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」の代表を務めた滋さんと共に、現在も拉致被害者を奪還すべく活動している。
内容=早紀江さんの子ども時代、結婚と子たちの誕生。晩ご飯を一所懸命作る、明るく元気な普通のおかあさんだった日々が語られる。そしてめぐみさんが消えた日から、この生活が消えて煩悶の20年が刻まれる。想像もしなかった拉致。すでに我々が知っている事、はじめて知らされることが織り込まれる。
感想=横田さん一家が闇の中で苦しんでいた20年間を、私は知らずに過ごしていた。表に現れたのは、20年後だったのだ。政府の対応、北朝鮮の反応、それらを期待を込めて追ってきたが、20年後から現在まで、もう18年になるが変化はない。38年間の苦しみの、幾ばくかでも分かち合いたいと湧き出る気持ちと共に、怒りが噴出した。
政府の交渉の、自己保全に終始する本質、一般市民のなかから発生する悪質な行為、著名運動を無視するどころか、ボードを叩き落としたという通行人。これらに暗澹とした。
表紙はモノクロ写真の集合、幼いめぐみ、中学生のめぐみ、父に抱かれためぐみ、母と肩を寄せ合うめぐみ。ときどき読み進むページから表紙に戻ると涙が溢れる。その写真はどれも、あまりにも普通の、ありきたりの家族のアルバムだ。
部活からの帰り道の中学生が、あと1分でただいま、という地点で拉致された。普通の家族は破壊され、苦悩地獄から抜け出ることができない現在である。
去年の晩夏にジャマイカに旅行したとき、カリブ海の歴史を勉強した。同時にボブ・マーリーという歌手とその唄に出会った。
結論を言うと、めぐみさんに対して北朝鮮がした行為は、アフリカから有無を言わさず拉致して売り飛ばし、買った者によって奴隷として使役させられた、あの奴隷行為と寸分の違いもないのである。奴隷船に連れ込まれた現地人たちは、弱い者は死に、生きながらえた者は売られた。決してアフリカへ帰ることはなかった。めぐみさんは、掴まえられて舟底に閉じ込められたとき、おかあさん、と繰り返して泣き、爪を立てて足掻いたという。拉致した工作員は40時間もの間少女を閉じ込めた。アフリカの惨劇と重なる拉致行為そのものだ。
ボブ・マーリーはジャマイカで生まれ、その母もジャマイカの人だ。しかし彼は歌う、アフリカへ、アフリカへ帰りたい、母なるアフリカ。
世代を重ねても、いまだに恋い焦がれる故郷の地である。
人間が普通に暮らす、それを毀しにかかる拉致行為は、世界中から一掃しなければならないと思わないか。横田さんご夫妻を助け、軸にして、私は世界中が協力できないか、それには何をしたらよいのか、考えているのだけれど……。
編集者の、胸一杯の愛情、心のこもった編集に拍手を送ります。
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