画家のブックデザイン
17-02-19-16:25-
『画家のブックデザイン』副題=装丁と装画からみる日本の本づくりのルーツ 著者=小林真理(こばやし まり)発行=誠文堂新光社 2018年 サイズ=26cm 223頁 ¥2600 ISBN9784416718216
著者=企画制作会社(株)スタルカ主宰。アートディレクター、画家、装丁家、美術ジャーナリスト。日本図書設計家協会会長・代表理事。http://www.starka.co.jp/gallery01.html www.facebook.com/STARKA.inc
内容=日本の装本のブックデザインの中で、画家が手がけた本を取り上げた大型本。吟味された紙を用いてレイアウトも力を尽くしている。登場する画家は橋口五葉、岸田劉生、竹久夢二、恩地孝四郎、川端龍子、藤田嗣治、東郷青児、佐野繁次郎、棟方志功、中川一政など多数。
感想=ブックデザインのなかでも「画家の」である。本のサイズ、紙質の手触りなどなど、隅々にまで行き届く繊細な神経には言葉もない。
「装丁概論」は、歴史、製紙・製本・印刷技術、日本における書物の形態、書物工芸の誕生・装丁の役割・装丁の美について・装画の美について、と項目を立てての概論で「はじめに」とともに、コクのある内容で読み応えがある。
本文に入るとフォントがガラリと変化する。内容と並ぶ見所で、ハイライトと言っても良い。
このような形で居ながらにして書物芸術の極致を鑑賞できるとは、願いも期待もしなかったことだ。
ひとつだけ紹介したい。
『脳室反射鏡』式場隆三郎著 高見澤木版社1939年発行の随筆集に棟方志功の装画。特殊東海製紙株式会社が社の蔵本を提供、協力されている、今は滅多に手に入らない本の表紙が見開きページにある。
ここに記されている文章は逸品と言っても言い過ぎではない。その一部分、
「耽美主義の谷崎の作品には、快楽に支配されるがままに落ちていく人間の姿が描かれるが、それが棟方の手にかかると、人の弱さも悲しさも包み込む浄土のような世界として表現される。谷崎自身も、棟方のその温かさに救いを求めているようだ」
これが、ひらがなに強い特徴のあるフォントを使って記される。
最初のページは式場隆三郎だが、次ページに谷崎潤一郎の作品『夢の浮橋』『瘋癲老人日記』に棟方志功の装画作品が並ぶ。(文庫本にリンク)
ここに観ることのできるものは、版画家・棟方志功と作家・谷崎潤一郎と本書の著者・小林茉里、この三者の、それぞれの分野における働きと、こうして一堂に会した際に繰り広げられる相互関係が生み出す増幅作用の成果である。
棟方志功は、ここまで谷崎を理解し、愛していたのか、谷崎は、ここまで棟方を信じていたのかも伝わってくる。言い方はいろいろできるとは思う、棟方志功の力が谷崎作品に力を上乗せしている、共著とまでは言わないにしても、棟方装画を離れて歩けるだろうか、と感じることも不可能ではない。
あのビアズレーのように、著者を食ってしまうのではない、全くそうではないのだが、離れて歩けるだろうか、もしも一人で歩いて行ったら別作品に感じられはしないかと思う。
両者の手を取り、ここに連れてきた小林真理の優れた観力、読力に感嘆しつつ、その土台にある本への愛が伝わり深い感動を呼ぶ。
ここに式場隆三郎(しきば りゅうざぶろう)(1898年〜1965年 )について追って書きをします。
新潟県中蒲原郡生まれ。精神科医。専門は精神病理学。医学博士。現在の新潟大学医学部卒業、静岡脳病院長などを歴任後、1936年に千葉県市川市に精神病院である式場病院を設立した。日本ハンドボール協会会長を務めた。
一方、白樺派の作家たちや柳宗悦、バーナード・リーチと親交を持ち、文芸世界に親しんだ。精神科医として関心を持った画家たち、ゴッホ、山下清などに関する著作も多い。
山下清(やました きよし 1922〜1971)は、世間で「裸の大将」と呼ばれた放浪の画家で、驚異的な映像記憶力の持ち主だった。式場隆三郎は、彼の才能に注目して物心両面で支援を続け、世間に広く紹介した。このことが発端で障碍者への偏見に満ちた世間の眼差しに変化が現れ、障碍児教育が進むようになった。
『脳室反射鏡』には同名のタイトルの作品を含む約45編の随筆が収められており、どれもこれも逸品揃いであります。市場での入手は困難ですが、図書館で閲覧可能(以下案内)です。
国立国会図書館蔵 公開範囲=国立国会図書館内限定 図書館送信対象 遠隔複写=可 データベース=国立国会図書館蔵書 NDLデジタルコレクション
著者=企画制作会社(株)スタルカ主宰。アートディレクター、画家、装丁家、美術ジャーナリスト。日本図書設計家協会会長・代表理事。http://www.starka.co.jp/gallery01.html www.facebook.com/STARKA.inc
内容=日本の装本のブックデザインの中で、画家が手がけた本を取り上げた大型本。吟味された紙を用いてレイアウトも力を尽くしている。登場する画家は橋口五葉、岸田劉生、竹久夢二、恩地孝四郎、川端龍子、藤田嗣治、東郷青児、佐野繁次郎、棟方志功、中川一政など多数。
感想=ブックデザインのなかでも「画家の」である。本のサイズ、紙質の手触りなどなど、隅々にまで行き届く繊細な神経には言葉もない。
「装丁概論」は、歴史、製紙・製本・印刷技術、日本における書物の形態、書物工芸の誕生・装丁の役割・装丁の美について・装画の美について、と項目を立てての概論で「はじめに」とともに、コクのある内容で読み応えがある。
本文に入るとフォントがガラリと変化する。内容と並ぶ見所で、ハイライトと言っても良い。
このような形で居ながらにして書物芸術の極致を鑑賞できるとは、願いも期待もしなかったことだ。
ひとつだけ紹介したい。
『脳室反射鏡』式場隆三郎著 高見澤木版社1939年発行の随筆集に棟方志功の装画。特殊東海製紙株式会社が社の蔵本を提供、協力されている、今は滅多に手に入らない本の表紙が見開きページにある。
ここに記されている文章は逸品と言っても言い過ぎではない。その一部分、
「耽美主義の谷崎の作品には、快楽に支配されるがままに落ちていく人間の姿が描かれるが、それが棟方の手にかかると、人の弱さも悲しさも包み込む浄土のような世界として表現される。谷崎自身も、棟方のその温かさに救いを求めているようだ」
これが、ひらがなに強い特徴のあるフォントを使って記される。
最初のページは式場隆三郎だが、次ページに谷崎潤一郎の作品『夢の浮橋』『瘋癲老人日記』に棟方志功の装画作品が並ぶ。(文庫本にリンク)
ここに観ることのできるものは、版画家・棟方志功と作家・谷崎潤一郎と本書の著者・小林茉里、この三者の、それぞれの分野における働きと、こうして一堂に会した際に繰り広げられる相互関係が生み出す増幅作用の成果である。
棟方志功は、ここまで谷崎を理解し、愛していたのか、谷崎は、ここまで棟方を信じていたのかも伝わってくる。言い方はいろいろできるとは思う、棟方志功の力が谷崎作品に力を上乗せしている、共著とまでは言わないにしても、棟方装画を離れて歩けるだろうか、と感じることも不可能ではない。
あのビアズレーのように、著者を食ってしまうのではない、全くそうではないのだが、離れて歩けるだろうか、もしも一人で歩いて行ったら別作品に感じられはしないかと思う。
両者の手を取り、ここに連れてきた小林真理の優れた観力、読力に感嘆しつつ、その土台にある本への愛が伝わり深い感動を呼ぶ。
ここに式場隆三郎(しきば りゅうざぶろう)(1898年〜1965年 )について追って書きをします。
新潟県中蒲原郡生まれ。精神科医。専門は精神病理学。医学博士。現在の新潟大学医学部卒業、静岡脳病院長などを歴任後、1936年に千葉県市川市に精神病院である式場病院を設立した。日本ハンドボール協会会長を務めた。
一方、白樺派の作家たちや柳宗悦、バーナード・リーチと親交を持ち、文芸世界に親しんだ。精神科医として関心を持った画家たち、ゴッホ、山下清などに関する著作も多い。
山下清(やました きよし 1922〜1971)は、世間で「裸の大将」と呼ばれた放浪の画家で、驚異的な映像記憶力の持ち主だった。式場隆三郎は、彼の才能に注目して物心両面で支援を続け、世間に広く紹介した。このことが発端で障碍者への偏見に満ちた世間の眼差しに変化が現れ、障碍児教育が進むようになった。
『脳室反射鏡』には同名のタイトルの作品を含む約45編の随筆が収められており、どれもこれも逸品揃いであります。市場での入手は困難ですが、図書館で閲覧可能(以下案内)です。
国立国会図書館蔵 公開範囲=国立国会図書館内限定 図書館送信対象 遠隔複写=可 データベース=国立国会図書館蔵書 NDLデジタルコレクション