文房 夢類
文房 夢類
myExtraContent1
myExtraContent5

文房 夢類

西行

西行』著者=井上靖 発行=学研 1982年初版 サイズ187mm ISBN4-05-100091-5 ¥980
著者=井上靖
内容=『山家集』の句を、十代から二十代、二十代から三十歳になったころまで、3章目が五十歳頃まで。あとは、五十歳、六十歳、七十歳と、おおよその年齢順に数十首を選び、西行を思う随想を記している。最後に四季の歌をあつめてある。
感想= 井上靖は書いている、二十台の歌には二十台の心が入っているものとして読むし、六十台の歌は六十台の心が入っているものとして、それを鑑賞することになる。残念乍ら小説家の私には、その程度の読み方しかできない。
 では、どのような読み方を私はしているのか。富士山の吉田口に立ち、見えぬ頂きを振り仰ぎ、手をかざす程度の読み方であろう。井上靖の読み方を辿ることは、窮屈さがなく、こちら側にゆとりを持たせてくれている、と分かる道のりだ。よそ見をしても良いですよ。脇道に入ってみたい? 遅れないように戻っていらっしゃい。そうやって気ままに読み進むうちに、ほとんど実像の知られていない、分かっている部分がきわめて少ない西行という一人の男が、立ち上がってくるのを見ることができる。これは鑑賞ではない、まさに、小説家が、小説家として働いてみせたのだ。西行を想い、西行を恋し、西行を師とした芭蕉もまた、西行に息を吹き込みつつ陸奥を旅したにちがいない。
 つけ加える私の感想……文字を追い読む。声に出して読む。西行のことばは、滞りなく流れ、自然で快い。なだらかで美しい日本の言葉である。柔らかく品よく、あたたかい。和の言葉を愛おしみ、たいせつに用いている。「夢類」の師。
myExtraContent7
myExtraContent8