ミスティック・リバー
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『ミスティック・リバー』MYSTIC RIVER 著者=デニス・ルへイン Dennis Lehane 訳=加賀山卓朗 発行=早川書房2001年 430頁 サイズ=20cm ¥1900 ISBN4152083662
著者=1965年マサチューセッツ州ボストン生まれ 小説・脚本家 ボストン周辺の数カ所のカレッジで創作の講座を持っている。本作は、クリント・イーストウッド監督で映画化され、2003年度アカデミー主演男優賞を、ジミー役のショーン・ペンが受賞。
内容=長編小説。11才の少年3人が路上で悪さをしていたとき、2人の警官から叱責を受けた。デイヴは集合住宅に住む母子家庭の子であると答え、ショーンは山の手の一戸建てに住むと返事をし、ジミーはデイヴと同じ地域に住んでいたが、山の手に住んでいると嘘をついた。警官二人は偽物であり、デイヴを選んで誘拐した。4日後にデイヴは自力脱出して戻った。誘拐されてなにがあったかは、最後まで語られない。
25年後、36才になった3人の物語は、ショーンが地元警察の殺人課勤務、妻と別居中。デイヴは 妻と息子と暮らすが、転々と職を替えて低賃金のその日暮らしをしている。ジミーは強盗の罪で服役、刑期を終えた今は雑貨屋を営んでいるが、土地で起きた未解決殺人事件の犯人の疑いを、街の人々から暗黙のうちにかけられている。17才になる前妻との娘、ケイティは美しく、ジミーは深く愛している。
ある夜、デイヴが血まみれの姿で帰宅し、人を殺してしまった、と妻に言う。その夜、ジミーの娘、ケイティが車を運転中に襲われて殺された。ショーンが捜査に当たり、事件は解明されてゆくが、デイヴの妻は夫を疑い、ジミーに相談する。手に怪我を負っているデイヴは、その傷の原因を尋ねられる度に、違う答えをして、次第に深みにはまってゆく。ジミーは河畔にデイヴを追い詰めて自白を迫る。強く否定するデイヴ。ジミーはやったと言えば命を助けるが、否定すれば今殺すという。デイヴは、生きていたい、死にたくないと命乞いをしつつ、やった、と答える。ジミーは即座にデイヴを殺して河に沈めた。
ネタバレになってしまったが、既に映画化され、年月も経っているのでご容赦願いたい。
ショーンは、ケイティ殺しの犯人、それは少年たちだったが、突き止め、同じ夜に別の場所で男が殺された事件も解決した。未成年者暴行の現場に出会い、過去が甦ったデイヴが衝動的に殺したのだった。事件は解決した。ジミーは、デイヴが無罪であったことを知り、打ちのめされるが、ジミーの現在の妻は、知らぬ顔で、この街で暮らし続けるようにと、ジミーの背を押した。従うジミー。
唯一の明るいエピソードは、警官のショーンが、別居中の妻の心に思いを寄せ初め、和解へ動き始めたことだ。
感想=ボストンという街を、私は一度訪れたことがあるが、学問の街という印象を受けた。しかし街というものは一面だけではない。山の手の一戸建て、川向こうの集合住宅、収入のちがい、何もかもちがう。しかも生まれたときからボストンを離れず、仕事を得て結婚もし、一生を終えるまで同じ場所にいる。そういう土地である。日本にも、こうした地域は多い。同じ顔がいつも行き来して、だれも外に出て行かないし、入っても来ない閉鎖社会の物語だ。土地と土地を流れる川と、人とがくっついて離れる事がない。これは土地の物語でもある。
著者の作風は、クライム・ミステリに分類されている。どのジャンルに置かれるにせよ、ストーリーの進行とは、直接関わりのない場面は多く、そこに描かれる情景と心理は緻密で深い。かすかな動きとそれに伴う表情と短い言葉は鋭く、いったい、この力量はどのようにして獲得したのかと舌を巻くこと屡々であった。
これは上質で高度に完成された文学作品である。人間だけでなく、ボストンという土地と、読者がそれぞれに住んでいる土地に通ずる普遍性のある土地が持つ呪縛、土地が抱える沈黙を描いている。
ミスティック・リバーは、ボストンに実在する河の名だ。河の持つ流れと、河の持つ側、そう河には両側があるのだ、これも身にしみる。
土地を離れて描く作家、架空の土地を創りあげて、そこにドラマを置く作家、さまざまな方法があるが、著者は我慢強く生まれた土地にしがみつき、掘り下げている。傑作。
著者=1965年マサチューセッツ州ボストン生まれ 小説・脚本家 ボストン周辺の数カ所のカレッジで創作の講座を持っている。本作は、クリント・イーストウッド監督で映画化され、2003年度アカデミー主演男優賞を、ジミー役のショーン・ペンが受賞。
内容=長編小説。11才の少年3人が路上で悪さをしていたとき、2人の警官から叱責を受けた。デイヴは集合住宅に住む母子家庭の子であると答え、ショーンは山の手の一戸建てに住むと返事をし、ジミーはデイヴと同じ地域に住んでいたが、山の手に住んでいると嘘をついた。警官二人は偽物であり、デイヴを選んで誘拐した。4日後にデイヴは自力脱出して戻った。誘拐されてなにがあったかは、最後まで語られない。
25年後、36才になった3人の物語は、ショーンが地元警察の殺人課勤務、妻と別居中。デイヴは 妻と息子と暮らすが、転々と職を替えて低賃金のその日暮らしをしている。ジミーは強盗の罪で服役、刑期を終えた今は雑貨屋を営んでいるが、土地で起きた未解決殺人事件の犯人の疑いを、街の人々から暗黙のうちにかけられている。17才になる前妻との娘、ケイティは美しく、ジミーは深く愛している。
ある夜、デイヴが血まみれの姿で帰宅し、人を殺してしまった、と妻に言う。その夜、ジミーの娘、ケイティが車を運転中に襲われて殺された。ショーンが捜査に当たり、事件は解明されてゆくが、デイヴの妻は夫を疑い、ジミーに相談する。手に怪我を負っているデイヴは、その傷の原因を尋ねられる度に、違う答えをして、次第に深みにはまってゆく。ジミーは河畔にデイヴを追い詰めて自白を迫る。強く否定するデイヴ。ジミーはやったと言えば命を助けるが、否定すれば今殺すという。デイヴは、生きていたい、死にたくないと命乞いをしつつ、やった、と答える。ジミーは即座にデイヴを殺して河に沈めた。
ネタバレになってしまったが、既に映画化され、年月も経っているのでご容赦願いたい。
ショーンは、ケイティ殺しの犯人、それは少年たちだったが、突き止め、同じ夜に別の場所で男が殺された事件も解決した。未成年者暴行の現場に出会い、過去が甦ったデイヴが衝動的に殺したのだった。事件は解決した。ジミーは、デイヴが無罪であったことを知り、打ちのめされるが、ジミーの現在の妻は、知らぬ顔で、この街で暮らし続けるようにと、ジミーの背を押した。従うジミー。
唯一の明るいエピソードは、警官のショーンが、別居中の妻の心に思いを寄せ初め、和解へ動き始めたことだ。
感想=ボストンという街を、私は一度訪れたことがあるが、学問の街という印象を受けた。しかし街というものは一面だけではない。山の手の一戸建て、川向こうの集合住宅、収入のちがい、何もかもちがう。しかも生まれたときからボストンを離れず、仕事を得て結婚もし、一生を終えるまで同じ場所にいる。そういう土地である。日本にも、こうした地域は多い。同じ顔がいつも行き来して、だれも外に出て行かないし、入っても来ない閉鎖社会の物語だ。土地と土地を流れる川と、人とがくっついて離れる事がない。これは土地の物語でもある。
著者の作風は、クライム・ミステリに分類されている。どのジャンルに置かれるにせよ、ストーリーの進行とは、直接関わりのない場面は多く、そこに描かれる情景と心理は緻密で深い。かすかな動きとそれに伴う表情と短い言葉は鋭く、いったい、この力量はどのようにして獲得したのかと舌を巻くこと屡々であった。
これは上質で高度に完成された文学作品である。人間だけでなく、ボストンという土地と、読者がそれぞれに住んでいる土地に通ずる普遍性のある土地が持つ呪縛、土地が抱える沈黙を描いている。
ミスティック・リバーは、ボストンに実在する河の名だ。河の持つ流れと、河の持つ側、そう河には両側があるのだ、これも身にしみる。
土地を離れて描く作家、架空の土地を創りあげて、そこにドラマを置く作家、さまざまな方法があるが、著者は我慢強く生まれた土地にしがみつき、掘り下げている。傑作。