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黒の服飾史

黒の服飾史』 著者=徳井淑子(とくい・よしこ) 発行=河出書房新社 2019年 239頁 索引・図版出典・参考文献・註=合計20頁 サイズ=20cm ¥3200 ISBN9784309227689
著者=御茶の水女子大学名誉教授。フランス服飾・文化史専攻。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士過程単位取得満期退学。
著書『
服飾の中世』(勁草書房1995年)『色で読む中世ヨーロッパ』(講談社2006年)他
内容=フランスを中心にヨーロッパの人々の色感覚について10章にまとめている。この10章のタイトルを紹介することで概要の紹介になるだろう。
多色使いの忌避・モノクロームの道徳性・黒いモードの誕生・メランコリーの系譜・プロテスタントの倫理とモノクローム志向・白いモードと白の表彰・近代社会のブルジョアの色・産業社会の労働の色・近代都市とジェンダー・現代のモノクロームと黒の表象、の10項目。
感想=フランスの服飾と文化を基本にして色の世界を、色の中でも黒に焦点を絞って論述している。
ヨーロッパの人々の色感覚を語りながら、ふと振り向いて、日本人の色に対する姿勢を語る、これがとても魅力的で、身近に感じながら楽しく読み進むことができた。
とはいえ、著者の長年の研究集積を基礎として、流動中の今現在の様相までをも捉えながらの緻密な考察は非常に深い。本書と向き合って読み進むためには、相当な努力が必要な本だ。
紙の本が軽んじられ、衰退の危機を言われながらも出版される書籍の数は多い。売れ筋本のデキを覗くと、目を惹くデコレーションのスイーツといった風情あり、口当たりは良いが筋肉にも血にもならない、せいぜい腹回りの豊かさに寄与するだけの代物が多い。
その中で本書は、骨にもなるだろうと本気で思う。
色と接することなしに過ごす日はないのに、日本人は色の扱いが雑で、特にドラマでの色の扱いかたに、私は辟易している。
日本映画の色使いは汚い、それが嫌で見たくなくなる。色使いというより、無視しているのではないか。小道具ひとつを選ぶにも、色を無視して選んでいるのではないか。
これで腹が立ってしまい、見たくなくなる。もしかして小津安二郎の映画が優れているの原因の一つはモノクローム作品であることにあるのではないかとさえ思う。

しかし本書では、ヨーロッパの人々が色に厳しく向き合うことを語る一方で、日本人の色使いを理解し、認めているのだ。
これは驚きであり発見だった。
ヨーロッパの感覚は常に宗教感覚を含有しており、色使いもまた、この枠の中にいる。
しかし日本人の場合は、これがないことを指摘している。
そのかわり日本人の感覚は、常に自然と共にあり、色も当然、自然の一部なのだった。
だから色の名も、なんと草や花に寄り添っていることだろう。心もまた自然で、素直なのだった。
たとえば緑色について。緑の葉は、秋に紅葉して色が変わる。この不誠実さは許せぬ。この理屈によって緑色の印象は悪いものとなる。
これがヨーロッパ感覚だが、日本では春には若葉色の着物を着ましょう、秋には紅葉模様の着物にしましょう、となる。
自然と手をつないで四季を歩む感じを受ける。

少し長くなるが、冒頭の「色に寛容な日本人」のところの一節を紹介します。
   ウンベルト・エーコが十四世紀のイタリアの修道会を舞台にして著した『薔薇の名前』は(中略)禁断の写本をめぐる相克の中で起こる連続殺人事件である。
   その謎を解くべく文書庫に潜入した若い修道士アドソは、けばけばしい色で塗られた写本挿絵の獣や女の姿に魅せられるが、
   しだいに感覚を失い不安にかられていたたまれなくなり、大慌てで文書庫を後にする。
   修道院のモノクロームの世界で若い修道士が出会った鮮やかな彩色写本の世界は、欲望の世界に誘惑する罠であり、危険のサインである。
   少ない色数で色を統一しようとするヨーロッパ人の意思は、日本人の色に対する態度と比較してみればわかりやすいかもしれない。
   それは自然の色に対する彼我の態度の違いでもある。
   私たちの街が色であふれているのは、都市計画の遅れのせいでも色彩設計への意識の欠如のせいでもないのかもしれない。
   おそらく日本人は、色に寛容な文化を持っているのである。
   それは季節の色を楽しむ文化を育ててきたからであり、四季折々の風物に恵まれた自然環境がそれを育んできたからだろう。
   季節の色をまとう平安朝の配色の好尚、すなわち重ね色目はその代表である。
   また藍、紅、紫など古く日本の色名には染料となる植物に由来する名が多く、色を抽象的に取り出すことをしたヨーロッパ人と違い、日本人は色をものの色としてとらえる傾向が強いこともその証であろう。
   日常生活から季節感は確実に減ってしまった今日ではあるが、それでもなお、季節感に乏しい寒冷の地域に住む北ヨーロッパの人びとに比べれば、わたしたちははるかに季節を意識して衣服の色を選んでいる。

巻頭に、有名な絵画が8ページにわたり18点掲載されている。
本文を読み進めて行くと、巻頭の、どの絵を参照するようにと出てくる。
これに従い、眺めてみると、なるほど! そうであったか! と目から鱗、たくさんの発見がある。
古来、ヨーロッパの人々が色に関して抱いてきた感覚と常識が、著者の的確、適切な説明に支えられて画中から立ち上がるのである。
絵画鑑賞の助けになり、文学作品の理解にも役にたつ。
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