文房 夢類
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社会脳からみた認知症

社会脳からみた認知症』著者=伊古田俊夫(いこたとしお)発行=講談社 ブルーバックス 2014年 新書版 ¥900 238頁 ISBN9784962578899
著者=1949年埼玉県生まれ。北海道大学医学部卒業。勤医協中央病院名誉院長。札幌市認知症支援事業推進医院長など歴任。日本脳神経外科学会専門医。認知症サポート医。
内容=社会脳科学という学問が急速に発達してきている。人が人の気持ちを理解する、他者の心の痛みがわかる、自分の至らなさを反省するというような、たったひとりで生きているのではない、社会の中で生きるために必要とされる社会的な脳の働きを研究している学問である。認知症の人は、こうした社会的な脳の働きが衰える。従来の記憶障害や知的能力の低下だけでは捉えることができなかった患者の心の変化とは、何だったのか? それが社会脳の部分によるものであり、この理解によって、認知症の症状を理解でき、介護者の負担も軽くできる、と説いている。
感想=そうだったのか、と明るい部屋に出たような気がするほど、認知症を理解できた。ただの激しい物忘れではない、知っている人を見て、どうして知らん顔なのか、それは社会脳が次第に衰えるからなのだった。従来の物忘れ病という認識から、社会的認知障害だと見直すことで、認知症患者の、さまざまな奇行の説明がつき、介護者が受けている過酷な精神的ストレスが軽減する。脳内の、どの部位が笑いを司るか、怒りを司るか、などが次々に解明されて、治療につながってゆく。壷猫に紹介したのは、この笑いの章だった。怒りについても興味深い研究結果が紹介されている。いままで残虐極まりない殺人事件に対して、なぜだ、不可解だ、とさまざまな検証がされてきた。ある学者は、指に「水かき」がついている人間がおり、それは水中に生きていた時代の原始的な素質を受け継いでいる特殊人間である。目を覆うような残虐殺人を犯す者は、これである。という仮説を立てていた。しかし最近は、怒るときの脳内の動きを見ると、人によっては、残虐な行為をしているときに快楽を感じる部位が作動していることがわかったという。私の興味は笑いと怒りの章だったが、最後に、認知症早期発見について、予防について、具体的な方法が提示されている。また、認知症の気配が生じた人は、おだやかに、楽しく、前向きな暮らしをすることで、食い止めることができるとも書いてある。叱られたり、怒鳴られたり、なじられたりしていると、どんどん進んでしまうという。90歳を過ぎると50%の人が、95歳を越えると80%の人が認知症になるという調査結果も出ている。認知症にかからないで長生きすることは、並大抵なことではなさそうだ。
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