文房 夢類
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あきらめない

あきらめない』村木厚子著 日経BP社2011年11月発行ISBN978-4-8222-6814-5 ¥1400 187mmX128mm 272頁
著者=1955年高知県生 高知大学卒業後厚生労働省入省 雇用均等・児童家庭局長などを歴任。現在は内閣府で政策統括官。同期の夫と2人の娘がいる。
内容=4章のうち、前半は生い立ちと、働き盛りの姿。後半2章が、本書出版の契機となった逮捕、拘留・釈放、復職について語られる。
大阪地検特捜部扱いの郵便不正事件を知ったのは、マスコミの報道だったという。著者が担当部署に問い合わせると、決済書も記録も一切ない、という返答。その団体が証明書を偽造したのだ、と考えていたところ、係長の逮捕、そして突然の逮捕と家宅捜査と事態が進んでゆく。
それから独居房で13番という呼び名とされて半年余りを過ごし、無罪判決を受けた経緯が語られる。終章に夫と娘2人の、短い文章が出ている。本書は書き下ろし。この経験を「妹たち」に伝えないか? という日経ウーマンの編集者の言葉によって決心された出版だった由。妹たち、とは、これから先、働きつづける女性たちである。そして、これは誰にでも起こること、という気持ちも込められている。
最後まで、しぶとく「落ち」なかった村木さん。もっとも「落ち」やすいのが教師と公務員だという。ひどい取り調べや、関与を肯定した上司、同僚、部下のサインを見せられたときのショックなどの件(くだり)は、息が詰まる。のちに逆取材して、してもいないことについて、なぜ、サインしてしまうのかを訊ねたことも興味ある件であった。追い詰められて眠れなくなる、食べられなくなる、つまり生き物の基本を失う故と語っている。そしてご本人は、熟睡し、しっかり食べていたのだった。
逮捕されて持ち物を取り上げられてしまう寸前の隙に、スイスへ出張中の夫へ「たいほ」の3文字を送信する。漢字に変換する暇もなかったという。飛んで帰ってくる夫は、飛行機の中で一睡も出来なかった、と書いている。帰国してみると、娘たちは、いつものようにうだうだしてるではないか。面会の許可が出たとき飛んでゆくと、本人はのほほんとしているではないか、と書く夫。平然と家宅捜査を受けた2人の娘、高校3年の次女は受験勉強に励んだ、そしてすべてが終わったとき、娘たちは、はじめて母に抱きついて声を上げて泣いた、という。
書こうとして書いたのではない、自然に表出する家族の結束した姿に、感動する。
優れた弁護士に恵まれたこと、支援の輪が広がり、カンパを受けたことから経済的にも救われ、毎日、誰かが面会に来てくれたことの心の支えなどがあって勝ち取った無罪だが、もっとも強力なポイントは、本人の、徹底した資料の読み込みにあったのだなあ、と感じ入った。独居房で、よくぞ沈着冷静に、丁寧に資料を読み込んでいったなあ、というのが私の感想である。このことがなかったら、と思うと、ぞっとする。えん罪は、ある種の必要があるゆえに作られる場合があるから。
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