死を招くファッション
09-02-20-15:08-
『死を招くファッション』Fashion Victims 副題=服飾とテクノロジーの危険な関係 The Dangers of Dress Past and Present 著者=アリソン・マシューズ・デーヴィッド Dr.Alison Matthews David 訳=安部恵子 発行=化学同人 2019年 184X254mm 236頁¥3500 ISBN9784759820140
著者=トロントのライアソン大学ファッション大学院准教授。専門は19世紀から20世紀前半にかけての欧米の衣類と服飾品。年齢不詳。約10年を費やし、専門分野のテーマで本書をまとめた。
内容=19世紀から20世紀前半にかけての大都市、パリ・ロンドンを中心に、ファッショナブルな製品が作られ、消費された。当時、製造にかかわった労働者が、多種多量の毒物で受けた著しい健康被害。消費者が毒の残った製品で受けた皮膚炎などの比較的軽い健康被害。当時の医者たちは、この関連性に気づき、興味深い記録を残したという。このフィールドが専門である著者が検証、現在の服飾に目を向けて、様々な危険物質を指摘、将来のあり方を探る。
感想=大判の画集のような体裁。カラフルな絵と写真が溢れる。序論と結論に挟まれた本文は7章に分かれており、布地製造過程と使用中の両方において被る毒害が種類別に提示、検証される。たとえば細菌・寄生虫を扱う第1章では、ナポレオンの時代に兵士たちが軍服についたシラミに苦しんでいる様子が披瀝される。帽子作りのために水銀が、緑色に布を染めるためにヒ素が用いられたなどの事例が、美しいドレスや帽子の絵と並んで、変形変色した身体のリアルな医学的写真と並ぶ。
その他製造過程で機械に巻き込まれる事故、服に着火し、着ている人が炎に包まれる事故、装身具などに用いられてきたセルロイドが燃える、あるいは爆発する事故などが続く。
結論を「ファッションの犠牲者を出さない未来へ」と題して「生命」と「ファッション」が手をとりあう未来を、新しい物語を紡いでいこう、と締めくくっている。
私が最も関心を寄せて読んだのは、最後のわずかなページ、今の世の中の部分だった。
ここに、現実の様相として記されているのは、テトラクロロエチレンが、相変わらずドライクリーニングで使われていること、前世紀には、岩を粉にして用いていた色が、今では彩度の高い合成化学染料に置き換えられていることなど多種多様。
美しいマラカイトグリーンという化学染料のマラカイトは危険な生物毒素だという。今、これが繊維を緑色に染める染料として使用されているのだが、同時に、養殖業でも用いられている。養殖魚につく寄生生物や細菌を死滅させるためだ。この毒素が食品の魚介類に入り込んで食卓へ運ばれている。
あるいは、Tシャツの胸に印刷される言葉やシンボルの多くは、有毒な環境ホルモンを使い、スクリーン印刷で描かれている。この印刷では表面がゴワゴワに固く仕上がってしまうので、柔らかい手触りにするために、さらなる化学物資、有害な各種多数の物質を用いてソフトに仕上げているそうだ。前世紀ではヒ素とか水銀とか言っていたが、今は異なるものではあるが、同様、あるいはそれ以上の害毒をもたらすものに囲まれていることがわかった。
本書は服飾だのファッションだのと言っているが、著者が服飾専門だから特化しているのであって、地球全体の、服飾以外のすべてについての問題であることは明白だ。
本書は、写真と絵画を多用し、さらに読み物としての魅力を加味しようと試みたのではなかろうか、翻訳とはいえ、文章の持て扱いにそうした空気を感じる。
たしかに表紙にあるような、美しい衣装のレースの裾を翻して踊るブロンドの美女は眼を惹く、さらにこの美女の顔が笑う骸骨であるから、いやが上にも目立つ。しかし、肝心な部分を簡潔に解説してもらえたならば、新書版に収まり、より早く明確に理解できたことかとため息がでた。
著者=トロントのライアソン大学ファッション大学院准教授。専門は19世紀から20世紀前半にかけての欧米の衣類と服飾品。年齢不詳。約10年を費やし、専門分野のテーマで本書をまとめた。
内容=19世紀から20世紀前半にかけての大都市、パリ・ロンドンを中心に、ファッショナブルな製品が作られ、消費された。当時、製造にかかわった労働者が、多種多量の毒物で受けた著しい健康被害。消費者が毒の残った製品で受けた皮膚炎などの比較的軽い健康被害。当時の医者たちは、この関連性に気づき、興味深い記録を残したという。このフィールドが専門である著者が検証、現在の服飾に目を向けて、様々な危険物質を指摘、将来のあり方を探る。
感想=大判の画集のような体裁。カラフルな絵と写真が溢れる。序論と結論に挟まれた本文は7章に分かれており、布地製造過程と使用中の両方において被る毒害が種類別に提示、検証される。たとえば細菌・寄生虫を扱う第1章では、ナポレオンの時代に兵士たちが軍服についたシラミに苦しんでいる様子が披瀝される。帽子作りのために水銀が、緑色に布を染めるためにヒ素が用いられたなどの事例が、美しいドレスや帽子の絵と並んで、変形変色した身体のリアルな医学的写真と並ぶ。
その他製造過程で機械に巻き込まれる事故、服に着火し、着ている人が炎に包まれる事故、装身具などに用いられてきたセルロイドが燃える、あるいは爆発する事故などが続く。
結論を「ファッションの犠牲者を出さない未来へ」と題して「生命」と「ファッション」が手をとりあう未来を、新しい物語を紡いでいこう、と締めくくっている。
私が最も関心を寄せて読んだのは、最後のわずかなページ、今の世の中の部分だった。
ここに、現実の様相として記されているのは、テトラクロロエチレンが、相変わらずドライクリーニングで使われていること、前世紀には、岩を粉にして用いていた色が、今では彩度の高い合成化学染料に置き換えられていることなど多種多様。
美しいマラカイトグリーンという化学染料のマラカイトは危険な生物毒素だという。今、これが繊維を緑色に染める染料として使用されているのだが、同時に、養殖業でも用いられている。養殖魚につく寄生生物や細菌を死滅させるためだ。この毒素が食品の魚介類に入り込んで食卓へ運ばれている。
あるいは、Tシャツの胸に印刷される言葉やシンボルの多くは、有毒な環境ホルモンを使い、スクリーン印刷で描かれている。この印刷では表面がゴワゴワに固く仕上がってしまうので、柔らかい手触りにするために、さらなる化学物資、有害な各種多数の物質を用いてソフトに仕上げているそうだ。前世紀ではヒ素とか水銀とか言っていたが、今は異なるものではあるが、同様、あるいはそれ以上の害毒をもたらすものに囲まれていることがわかった。
本書は服飾だのファッションだのと言っているが、著者が服飾専門だから特化しているのであって、地球全体の、服飾以外のすべてについての問題であることは明白だ。
本書は、写真と絵画を多用し、さらに読み物としての魅力を加味しようと試みたのではなかろうか、翻訳とはいえ、文章の持て扱いにそうした空気を感じる。
たしかに表紙にあるような、美しい衣装のレースの裾を翻して踊るブロンドの美女は眼を惹く、さらにこの美女の顔が笑う骸骨であるから、いやが上にも目立つ。しかし、肝心な部分を簡潔に解説してもらえたならば、新書版に収まり、より早く明確に理解できたことかとため息がでた。