文房 夢類
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文房 夢類

裏切り

裏切り』(SVEK)カリン・アルヴテーゲン(KARIN  ALVTEGEN)著  柳沢由実子訳 小学館 2006年発行 695円 ISBN4-09-4054637  小学館文庫
 著者=いま北欧で注目を集めるミステリ作家。

 結婚して十五年の夫婦のサイコサスペンス。スウェーデンの家庭生活風景が興味深い。
 主人公エーヴァの住む地域が工事中。それは地域共同暖房のパイプとブロードバンドを引くための工事である。ストーリー展開と直接関係のないエーヴァの述懐が著者の思いと重なるかのように述べられている。
「彼女は通りの両側に立っている二十世紀の初頭に建てられた古い家々を見上げた。この地域の、この区域は、一軒一軒の家が小さめの領主の家のような構えだ。彼女たちの住んでいる区域とはちがう。そこの家々はもっと小さい。ふつうの勤め人が買えるように初めて売られた土地だった。百年。百年の間にどれほどの変化があったのだろう? 家だけでなく、社会でこの百年間で変わらなかったものがあるだろうか? 自動車、飛行機、電話、コンピューター、労働市場、男女の役割、価値観、信仰。まさに変化の世紀だった。
 さらに加えて、人間がおこなったもっとも残虐な狂気の戦争の時代。彼女はふだんからよく自分の祖父母の時代と比較する。彼らはたくさんのことを経験させられてきたはず。新しいことを身につけ、学び、変化に順応せざるをえなかったはずだ。彼らほど多くの進歩と変化を経験した年代が、いままであったろうか? すべてが変わった。思うに、変化しなかったのは一つしかない。変化しなかった、のではなく、変化しないことが望まれる、と言うほうが正しいかもしれないが。それは家族。そして一生続く結婚。
 だが結婚はもはや、男女それぞれにかけがえのない役割を課した共同体ではなくなった。お互いに頼り合う、相互依存の関係ではなくなった。男も女もいまではそれぞれが経済的独立性をもつように教育され、そのように社会で働いて自分の分を稼ぎ出す。結婚を選ぶ唯一の理由は、経済のためではなく、愛情のためなのだ。エーヴァは、もしかすると、結婚が機能しない理由はそれなのかもしれないと思った。」
 この <結婚が機能しない理由> という部分に注目して、取り上げた。
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