文房 夢類
文房 夢類
myExtraContent1
myExtraContent5

文房 夢類

アフガニスタンの風

アフガニスタンの風』(THE WIND BLOWS AWAY)著者=ドリス・レッシング DORIS LESSING 訳 加地永都子 発行=晶文社1988年 253頁 20cm ¥2100 ISBN4-7949-28238
著者=前掲
内容=1986年9月、数年前からアフガン救援運動を通じて、この闘争と関係してきたレッシングは、救援運動に関わる人たちと共に、パキスタンにある難民キャンプを訪問した。これは、その記録と思索である。難民たち、アフガニスタンの女性たちの声が満ちている。左手の伴奏のようにレッシングの思索が流れる。
感想=レポートは飛行機の中からはじまる。隣の女が寄りかかってくる、それを顔を見ないで押し返す。こんな些細なこと。大きな問題、難民キャンプのことを書かなければならないんじゃないの? ところが読んでも読んでもこの調子で、壁に掛かっているモノから,テーブルの上のものすべて。会話の隅々まで。女たちが、どういうときに顔を隠し、いつ素顔をさらけ出して活発に喋るのか。写真を撮らせて,と頼むと拒絶される。花火かしら、と見ると、照明弾だ。
やがて読者は難民キャンプのざわめきが聞こえてくるのを知る。レッシングは、地下抵抗運動で知られるタジワル・カカール夫人とのインタビューをする。その運動のありさまと、逮捕されて1年間拘留されていたときの凄惨な拷問について語る。巻末に近いこの記述に至ると、始まりから続いてきた普段の姿が恐ろしいほどの現実感を保って迫ってくるのを感じた。恣意的に逮捕がなされ、身体の自由と言論の自由を封鎖され、1年間拷問を受け続け、いかなる書類も告白も手に入らないと分かって釈放された5児の母の声が読者に手渡される。最後の章は「西側の意識の不思議」というタイトルで近代化について疑問を投げかけている。この短い章は、全部をここに紹介したいほどに深い意味を持っている。チェルノブイリ、スリーマイルからナチスのホロコースト、それ以前からより大がかりに行われた膨大な殺戮について。統計の示す数字の油断ならないこと。私たちは数字と統計の囚人になっている、とレッシングは言う。難民キャンプについて記事を書き、米国とヨーロッパの主要新聞に送ったがことごとく掲載を断られたこと。
最後の行……本書を執筆している間中、強制収容所で死んだソ連の詩人、オシップ・マンデリシュタームの言葉がわたしの脳裏を去らなかった。「そして、わたしを殺すのはわたし自身の種族だけ」
myExtraContent7
myExtraContent8