文房 夢類
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文房 夢類

映画 グラントリノ

今回は、映画を取り上げます。
グラン・トリノ GRAN TORINO
監督=Clint Eastwood
制作=Clint Eastwood  BILL gerber   Robert Lorenz
脚本=Nick Schenk
原案=Dave Johanson  Nick Schenk
主役=Clint Eastwood
Trey
役として Scott Eastwood Clint Eastwoodの一番下の息子
音楽=Kyle Eastwood  Clint Eastwoodの一番上の息子
Michael Stevens
 Jamie Culum
2008
12月 Warner Bros.Pictures 制作国=USA 116分 英語 

ストーリーに感想を交えて=
 長年勤めたフォードの工場を引退し、妻に先立たれたウォルト・コワルスキーは、二人の息子夫婦と孫に感情を逆なでされて苦々しい。犬のデイジーとだけ仲良くして独り住い。
朝鮮戦争の帰還兵である彼は、戦場で人を殺した重い記憶が胸底に沈んでいる。意固地な老人は、このままでは死ぬに死にきれない罪の重圧を、どう解決して良いのか自分でもわからない。愛し、頼りにしてきた妻でさえも、夫の苦しみを取り払ってやることができずに、懺悔して、の言葉を神父に託して死んでいったのだ。その神父ときたら神学校出の若造で、教科書通りのセリフでしつこく彼につきまとう。これも苛立ちの種だ。

高齢にはなったが、一人暮らしで困る種などあるものか。芝生の手入れ、愛車の手入れも完璧だ。
この素晴らしい車が、タイトルにあるグラントリノ。
主人公がお宝にしているのは
72年型で、画期的なモデルチェンジ、魅力のフロントフェイスが度々登場する。
腹立たしいことは、隣家に居ついたアジアの原住民、モン族の一家だ。
彼らは、この辺りの白人はみんな、アタシらを嫌って引っ越したのにアンタだけ引っ越さないんだね、みたいな目で、この老人を眺めている。
この大嫌いな一家との偶発的接触から、やがて彼はここに死にゆく安らぎの小道を発見する。見かけは、彼がモン族一家の中のパッとしない若者を助ける、教える形だが、実はその行為が彼を救いの道へ導いてゆく。
この老人のよりどころ、つまり日常生活での頼りとするものは銃である。
怪しいぞ、と気配を感じた瞬間、腕を伸ばして掴むのが銃である。ここに登場する銃が
M1 Garandだ。
セミオートマチックのミリタリーライフル。 30口径。朝鮮・ヴェトナムの戦闘で使用。単にM1と呼ばれる。
おお。すごい銃だ、これがガンロッカーに格納されていなくて、手の届くところにあるのだ。これがアメリカだ。
グラントリノとともに、
M1はラストシーンでも活躍する。この活躍こそ、この作の目玉といってよい、幻の登場シーンだ。監督の、銃に対する現在の精神だと思う。
つい惹句を弄し仔細を語らないのは、観ていただきたいが故に、露わにすることを惜しんでいるのである。
一昔前のクリント・イーストウッドだったら!
彼は堂々自力解決、胸のすくような形でラストシーンをやりおおせていたのだ、しかし。
今、この老人は、最後の最後を、あまり好きではない警察の力を借りる判断をする。耐え忍んで警察の力に委ねるのだ。
人は、どんなに力んでも自分一人で死ぬわけにいかないんだ、という、強き男として認めたくないが受け入れるしかない苦渋をも滲ませる。
本作には、キリスト教、神と罪についての理解が必要不可欠。
主人公の精神的クライマックスである(若造の神父に、老人が懺悔をする)シーンは、キリスト教を知る人々に、どれほど強い感動をもたらすことだろう。異郷の輩、私でさえも胸が締め付けられる。

描きにくい強き男の終末期を、これほどまでに描きおおせたとは、敬服するしかない。
選びぬかれた小さなエピソードシーンの数々は、脚本を書くにあたり、人物設定の際の主人公や神父の人種設定をはじめ、周到な計算が尽くされていることが、ひしひしと伝わってくる。
それぞれ独立して活躍中の息子さん二人が協力、参加していることも良いかな、であった。
これは、彼が
78歳の時の作品で、この後「ハドソン川の奇跡」2010年・「1517分パリ行き」2018年を作っている。1930年生まれですから、すごいことです。
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