文房 夢類
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富士猫の話 #3 顔

猫の顔
猫の顔は、犬の顔と動きが違う。つい、犬と比べてしまうのを大目に見て頂きたい。私には犬が染みついている。猫の顔で一番目立つのが目。丸く見張っている。眩しいからと犬のように瞼を細めない。明るいと瞳が縦に糸のように細くなり、暗いとまん丸の瞳、真っ黒になる。昔の人は、これで時間を計ったというから敏感なものだ。この目で、動く物を捉えてはなさない。蜂一匹を真剣に追いかける。犬も同じだけれど、犬は猫のように小虫まで追いかけはしない。鼻先を飛び回る虫は、うるさいなあ、である。
耳は子猫のときは釣り合いが取れないほど大きな耳をしていて、1年過ぎて大きさが安定するとバランスの取れた大きさになる。耳の動かし方は、犬とそっくりで、眠っているときも、しっかり立てている。音のする方角へ細かく向けるのも、すべての動物に共通しているのだろう、人も気持ちでは音の方角へ耳を澄ませているにちがいない。怖れたときは平たく寝かせるから、怖がっているな、と見て取れる。犬は怒ると鼻に皺を寄せて前歯を剥き出す。白い歯と牙を相手に見せつけるのだ。私は、富士が鼻に皺を寄せるのを見たことがない。犬の持っている表情筋がないのではないかしら。かわりに怒るとシャーッと嵐を吹く。このときは口を大きく開いて、歯も牙も剥きだして全開。しかも口の中全体が真っ赤。顔を真っ赤にして怒る、という感じそっくりである。欠伸をしてああ〜〜ん、と口を開けるときは、舌の色も口の中も、ピンク色だし、身体全体が緩みきっている。鼻の両脇、ヒゲが生えているところ、ニャロメは、ここを強調している顔になっているけれど、この部分が最も表情豊かで面白い。これが猫の特徴だろうか。無事平温で何事もないときは、顔が三角に見えるほど、すっきりと細い。芋虫が足もとを、もぞもぞと行進している、その動きを注視している。こんなときは頬を膨らませてヒゲが左右に広く張っている。もっと大きな獲物ーたとえ、それがオモチャのネズミであろうと、獲物に向かうときは、この頬の張りが著しく膨らむ。狙っているな、と一目で分かる。真剣なまなざし、左右に張ったヒゲ。頭と背を低く構えて尻を微妙に蠢かせる、これが攻撃のスタイルだ。なんでもないときに、つまり獲物と無関係なときに頬を膨らませて歩いてくることがある。これは外猫たちがしばしばやる表情で、「おなか、空いた!」です。尻尾、足も書くつもりだったけれど、次回にします。
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