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入浴中の読書

湯船に温まりながら本を読む。これを是非、してみたいと願うようになったきっかけが二つある。一つは、実際に家庭の風呂で本を読むのが楽しみだ、という人の話を聞いたこと。もう一つは図書館の本に、非常にしばしば「水濡れ」本があることだ。
これはお風呂に入りながら読んだに違いないと想像し、入浴読書人は相当いるのではないかと思ったのだ。
私は長風呂が好きだから、本を読みながら小一時間も湯の中にたゆたっていたらもう、天にも昇る心地になるでしょう。が、実際に書物を浴室に持ち込む気にはなれなかった。湯の中に落とすことはないとしても、確実に強い湿気を紙が吸収する。これをしたら本がかわいそうすぎる。
と右往左往している時に、アマゾンの電子ブック、Kindleの第10世代が発売になった。これが防水機能付きと知った瞬間、身を乗り出し、買った。中1日置いて手元に来た10世代kindle paperwhiteを持って、いそいそと入浴。
こうなると何のための風呂かわからない。本を読むために風呂に入ったようなものである。浴室に入るなり湯船に飛び込んで開いた。
夢類さん、とKindleが呼びかけてくれた。もちろん文字で、である。「あなたは第2番目のKindleでXXX頁まで読んでいます。この頁へジャンプしますか?」OK 。第3番目の新顔にジャンプ。いそいそと読みかけの本の続きを読んだ。
うっかり湯船に落としても大丈夫なのである。もうもうと立ち込める湯気に囲まれていても平気なのである。何しろIPX8だ。防水等級IPX8とは、0から8までの9段階のうちのレベル8で、水面下での使用可能。具体的に言うと、深さ2mの水中に60分おいても大丈夫という能力。画面の明るさは程よく調節されており、湯気の中でも楽に読める。フォントもサイズも調節できるので紙の本よりも自分の状態に合わせてくれる。
やがて私は、焼酎のお湯割のグラスを片手にkindleを開き、湯の中で時を忘れるようになった。至福の時間の具現だ!
こうして何ヶ月かを楽しく過ごしてきた、そして今夜。雛祭りの宵のお風呂に私は、kindleを持たずに入った。ほどよい温かさの湯。身体中が緩み温まり関節がほどけてゆく、使いすぎの眼の芯もゆるんで、脳みそまでもが、ほんわかしてきた。
なんということだろう、この何ヶ月間かの間、長湯をしながら温かいお湯を感じていなかったのだろうか、久しぶりの入浴のような気がしている。
濡れた指先で画面の左下をタップする。次ページが現れる、読む。この繰り返しだった。集中して読めば読むほど、本の内容に引き込まれれば引き込まれるほど、身体の存在を忘れるのだった。小一時間入っていても、あっという間だった。温まったという感覚は、なかった。
温かい湯に浸るためだけにお風呂に入った雛祭りの今宵、久しぶりに長湯をしたなあ、と満ち足りて上がったが、一時間どころか、30分足らずだった。

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