文房 夢類
文房 夢類
myExtraContent1
myExtraContent5

2月がおわる、明日から弥生

今月のうちに、やはり記しておきたい出来事があります。
それは外猫のマルオがコウモリを捕まえてきたことです。
何日か前の早朝のことで、目ざとい息子が指差してコウモリ、と囁いたので気づきました。真っ黒い小さなドローンのようだった。
10歳近いかと思われるオス猫のマルオは、時たま小鳥やネズミを捕ってくる、獲物を食べてしまうこともありますが、ほとんどの場合、獲物は私へのプレゼントであり、いつも同じ場所、私が朝一番に引き開けるガラス戸の足元に置いています。
あら、と見下ろす。まああ、と驚く私を素知らぬ風で眺めています。マルオは猛烈な甘ったれで、その一端として貢ぎ物も持ってくるから、嫌でもなんでも、その気持ちに応えてありがとうを伝えないわけにはいきません。
夏の夕方に市民農園の上を飛んでいるコウモリが、どの家のどの場所で昼寝をしているかを知っているので、かわいそうでなりません。あまり寒い日がなかったこの冬、うっかり飛び出したのでしょうか。
このコウモリは群れているのではない、たった1匹の珍しい存在、単独で生きてきていました。都会ではハロウィンの添え物くらいのもの、しかも全く好かれないもの、私も好きなんて言えない生き物です。
はじめて近々と見た子ネズミそっくりのコウモリ。目を閉じて永遠の眠りについた小さな子に、たまらない愛おしさが溢れてしまい、多分忘れることはないでしょう。
早まって飛び出すなんてバカ、バカ。私は夏の間じゅう見上げていて、あなたを知っていたのよ。キミは独りぼっちじゃなかったんだから。私がいたんだよ!
一方、それは違う、と別の声がする。
いくら雪のない冬とはいえ零下の早朝が続いたのだから、寿命が来て命を終えたに違いない。傷一つないところを見ると、見つけたマルオは見捨てるに忍びなく、運んできて私に知らせてくれたんだ。
小さな命の終わりに揺れる気持ちが、落ち着ける椅子を探している。春は残酷な季節、死と背中合わせに姿を見せる。
myExtraContent7
myExtraContent8