文房 夢類
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ナメクジの話

今年の初夏の頃から、ナメクジの大群を見るようになった。いつでも、どこにでもいるわけではない。隣家の塀に現れる。雨上がりの早朝に現れる。
コロナ騒ぎ真っ最中、ひきこもりの日々が始まったある朝、玄関前の掃き掃除をしようとして道に出たとき、ふと隣家の塀を見たら、無地だった塀が模様付きの塀に変わっていた。
それは高さが私の肩くらい、8〜9メートルほどの長さのコンクリート塀だ。
ところが塀の模様ではなかった、模様と見えたのはナメクジの大群だった。35ミリ程度の、ごく細いナメクジが、塀一面にびっしりとついていた。まだ5時前のことで、周囲の家も道路も静まっていた。
模様と見間違うくらいだから、一面についていたと言っても3、4センチの間隔を置いて並んでいたのだ、塀の上から下まで。のろのろしているナメクジが、よくまあ這ったもんだ。
これは、おぞましい光景だった。寒気を呼ぶ感覚があった。やがて日が昇りゴミ出しに出たときに、見たくもないが、つい横目で見てしまった。びっくりした。一歩進んで、もう一度見直した。
たしかにいたはずの、あの大群が消えていたのである。ただの1匹も残っていなかったのだ。
そこで私は考えた、あののろのろのナメクジが、揃って短時間で移動した。これほど不可解な現象は初めてだ、ナメクジが這う速度とは、いかなるものなのか。塀に現れた目的とは? 
考えたって、答えが出るはずもない、変ねえ! しかない。
この現象は、一度だけでは終わらなかった、ナメクジは繰り返し塀一面を覆い尽くし、やがて大群は、かき消すように消え去るのだった。塀の内側の草むらにこもるのだろうか。
友人にメールで訴えたところ、それは異常気象の影響でしょう、地球がおかしくなっている、という返事。地球規模の事件とも思えないのだが。
やがて酷暑の日が続くようになり、隣家の塀模様は消えた。が、ナメクジの一部が我が庭へ這いこみ、メダカの住処に浮かぶ布袋草の丸い葉に乗っているではないか。しかも成長したのだ、大きくなっていた。
水の上に浮かぶ布袋草の葉に、どのようにして飛び乗ったのだろう? ピンセットで捕獲し、ポリ袋に集めてゴミバケツに入れる。
大群ナメクジ大移動の謎、水上に浮かぶ葉に乗るナメクジの謎。何も解決しないまま、季節は移りゆく。
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