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雪の日に家出猫

3月の終わりに来て雪が積もった。この冬の初雪ではないが、はじめての雪らしい雪の日になった。
外猫のマルオは千早のために作った犬小屋、千早ハウスに入って22時間持続のホッカイロを入れてもらって、この冬を過ごしてきた。ハウスの中に猫輪っかを入れて、その中に入り、ガラス戸越しに私のいるリビングを眺めて過ごしている。
正午前後は雪が降りしきり、フェンスの上などは10センチほども積もった、と見たらマルオがいなかった。この雪の中を、どこへと思ったが、次に気づいた夕方にもいなかった。朝夕に富士と一緒の時間にご飯を食べるのだが、いない。
待つ。富士も待っていた。初めのうちは、そのうち来るでしょう、と思い、次第に、どうしたのかしら、となり、暗くなってきた時は、雪の道を行ったり来たりしながら小さな声で、マルオ? マルオ? と呼びかけながら歩いた。
この老いた雄猫は、このあたりで生まれ、生き延びてきた野良猫だ。なんとか一生を全うさせてやりたいと思って衣食住の世話をしている。親も兄弟も知らず、周囲にいる数多の人間は友好的ではない社会に、たった一人で生きているのだ。
はじめは、引っ掻く、噛み付く、しかできなかった荒々しい雄猫が、次第に手から食べることを覚え、抱かれるようになり、呼べば走り寄るようになり、今は毎朝顔を拭き、ブラシをかけてもらうのを待ち構えているようになった。
それが、出て行った、それも雪の日に。
メールで騒ぎ立て、夜更かしをして表を眺めるが気配もない。二次災害は笑い者になるだけだから動くのは諦めて、ついに「まじない」に頼ることにした。
まじないとは、ここに掲げる歌を紙に書いて、戸口に貼るというものだ。それも、上の句だけを書いて貼る。めでたくまじないが効いて猫が戻った時には、すぐに下の句を書き加えて謝し、この紙を燃やす、というものである。
  立ち別れいなばの山の峰に生ふる 松とし聞かば今帰り来む 
今朝、マルオは千早ハウスの中の猫輪っかの中にいた。無事で、無傷だった。
いそいそと下の句を書いて燃やした。終わってみれば、なんか私が遊ばれているようなものだった。
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