文房 夢類
文房 夢類
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夢類日記 終了

12月が目の前に、もう迫ってきた。日本各地には数多の祭りがあり、それらは農耕社会の人々の、秋の実りへの感謝、地域を守ってくれる神々への感謝、そしてさらなる守護を祈念する催しだ。そして真冬に入り、お正月を迎える。
アメリカやカナダでは、同じ意味を持つ感謝祭が催される。この日は七面鳥の丸焼きを作り、秋の実りの数々を料理して飾り、家族が集い祝い楽しむ。どうして七面鳥なのかという理由は、聞いた話だがピルグリムがメイフラワーでやってきたとき、荒野のブッシュを駆けまわる、すごい面相の大きな鳥を見つけて捕まえて飢えをしのいだのが始まりだという。大きな木製のお皿の真ん中に丸々と太った大きな七面鳥の丸焼、その周りをマッシュポテトやトウモロコシや、いろんなご馳走で取り囲む。この日には、家を離れて暮らしている子たち、家族、みんな寄り集まって、とにかく食べる楽しみに浸る。アップルパイも焼いてある。
木製のお皿というか、七面鳥のためのプレートには、肉汁が流れるように細い溝が付いていて、端にはグレービーの溜まり場が丸く彫られている。
これらはすべて、その家のお母さんが料理する、だから子どもたちにとっては懐かしいふるさとの味、母の味だ。アメリカでは第4木曜日だから、今年は、明日の26日だ。

「早いけど」と言って長男がダンボール箱の大きいのを持ってきてくれた。今は、このようなご時世なので、家族が集まって食事を楽しむことはしません。長男は私のために感謝祭のご馳走を持ってきてくれたのだ。
クランベリージュースの3リットルボトル。冷凍の七面鳥しかなくてね、と言いながら次々に現れる七面鳥丸焼きの一部。スタッフィング、サツマイモ。彼は材料を調達して自分で焼いたのだった。クランベリーソースも持ってきてくれた。
スタッフィングにはカシューナッツ、セロリを使っていた。パプリカの輝くい色合い、しっとりと焼きあがったターキーの香りにめまいがした。これは、私のやり方そのものだった、パプリカを使うことも私のやり方だった。私のふるさとの味を、息子が作ってふるさとへ運んできてくれたのだ。
私には、東京都内という生まれ故郷と、新しい気質、文化に触れた2番目のふるさと、アメリカがある。これはアメリカ大陸の味だった。私がお隣やお向かいの奥さんたちから教えてもらい料理している時に、周りをうろちょろしていた子たちが、見て覚えていたのだ。まだ、背伸びして流しの中を覗くようなチビちゃんだったのに。次男が作るミートソースは絶品だし、いつの間にか、子たちは母の手を超えてしまった。母の味、ふるさとの味を、それぞれの手の中に育てて持っていた。ゆっくり食べてね、と帰って行く息子の車を見送った後、私は干し柿を思い出した。この日に手渡すために出来上がったばかりの干し柿を包んでおいたのだ。
もう、ダメだと思う。こう簡単に忘れ物をするようでは。これが初めてではない。自分自身に呆れている。真っ赤っかの夕焼け空は、明日の晴天を報せている。感謝、感謝の感謝祭は良い節目じゃないかな、この辺で夢類日記を終わりにしましょうと思い立った。
今まで読んでくださった日本列島各地の皆様に心の底から感謝します。どうもありがとうございました。
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