文房 夢類
文房 夢類
myExtraContent1
myExtraContent5

町伝説

都市伝説という現代の怪談めいた噂話がある。昨日今日が暑さの最高地点と言われているので、身の回り、自宅近辺に澱む怪談話を、町伝説と銘打ってご披露しよう。近所の人から聞いた話であるから、近所の人々は私よりも詳しいはずである。
地形は武蔵野丘陵の一郭であるから山坂の連なりである。住宅地として開発され、直線道路が数多く作られた。バス通りが私鉄駅に通じているのだが、その途中にトンネルがある。実はあるのではなく作ったのだ。このトンネルの特徴は、坂道トンネルであることだ。例によってコンクリの壁にはスプレーで落書きが施され、それを消した跡が残っている。
このトンネルを通る車に異変が起きる。夜だけである。後部座席から運転者の肩越しに首が出て行く手を見るという。それだけの異変である。怖がらせようとして書いているわけではないから、これだけのことだ。ただ、独りで運転している者だけが出会う。男女の区別はないという。もうひとつ、あった。それはトンネルを下るときだけに出会うのであり、上り坂では出ない。
私は、このトンネルが作られる以前から住んでいるので、もとの野道を知っている。ヤマユリの花が咲き溢れる山裾に、土地の農家のものだろうか、草に埋もれて小さい墓所があった。そのなかの最も小さい墓石に「青幻童女」と彫ってあった。村の童を祀る墓石だろう、それにしても美しい名を、と心に留めたのが、後の私の作品『天明童女』の原型となった。トンネルは、この墓所を削り壊して貫通させている。
myExtraContent7
myExtraContent8