町伝説 その2
31-07-14 14:21
たったひとつでは、町伝説とも言えないような気がして、もうひとつ聞いている話を披露します。これも、ごく近所のこと。山林を大手の開発業者が造成し、系列の販売会社が一次、二次と段階的に売りに出した。当初は数十坪単位で販売した区画ですが、いまは住宅も住人も老化したので売りに出す人が増えています。しかし今時は数十坪の土地は、広すぎて買い手がつきません。業者が買取り、半分に分けて、洋菓子のように美しい2軒の家を建て、建て売り住宅として売りに出すのが一般的なやり方になっています。そのひとつを買って住み始めた若い家族がありましたが、まもなく手放し、次に買った人は、貸家として利用し始めた。ここまでが前置きで、この洋菓子のような貸家にまつわる噂話です。
東南の角地の白い家。窓枠と雨樋などを灰色に塗った、小さいけれど、上品でお洒落な家。背の高い二階の屋根には、鳩小屋と俗に呼ばれる可愛らしい小屋根の張り出しがあって、換気のための高窓がついています。まるで鳩時計のように見える。開け閉めには、とうてい手が届かないので、紐で開け閉めをすることになりますが、これは最近の流行で人気があるデザインです。そうそう、これも前置きです。
この貸家がすぐに、入居者募集の看板を出す。入居するとまもなく、また引っ越してしまう。通りがかりの人たちには見慣れた風景となっていたのですが、少し離れた地域の人から、この家の噂が伝わってきました。夜、小屋根の窓が開いて顔がみえるという。男か女か、わかりません。わかるほど見届けた人がいないというのが本当のところで、髪も肩も首も、見ていない。顔だけを、誰もがみているという。誰も、といっても深夜に犬の散歩をする人たちだけだそうで、この角まできたときに突然、犬に逃げられています。飼い主の手からリードをもぎとるようにして引きずり、なんと我が家へ逃げ帰ってしまう。しまった、と途方に暮れたとき、小窓が開いていて顔があったという。犬を追いかけるべきときであるのに、ふと見上げたそうです。街灯の光は舗道を照らし、屋根の方向は闇です。その闇のなかに見たという。たぶん、もう少し経つと噂話が成熟して、まとまった町伝説が出来上がるのでしょう。
東南の角地の白い家。窓枠と雨樋などを灰色に塗った、小さいけれど、上品でお洒落な家。背の高い二階の屋根には、鳩小屋と俗に呼ばれる可愛らしい小屋根の張り出しがあって、換気のための高窓がついています。まるで鳩時計のように見える。開け閉めには、とうてい手が届かないので、紐で開け閉めをすることになりますが、これは最近の流行で人気があるデザインです。そうそう、これも前置きです。
この貸家がすぐに、入居者募集の看板を出す。入居するとまもなく、また引っ越してしまう。通りがかりの人たちには見慣れた風景となっていたのですが、少し離れた地域の人から、この家の噂が伝わってきました。夜、小屋根の窓が開いて顔がみえるという。男か女か、わかりません。わかるほど見届けた人がいないというのが本当のところで、髪も肩も首も、見ていない。顔だけを、誰もがみているという。誰も、といっても深夜に犬の散歩をする人たちだけだそうで、この角まできたときに突然、犬に逃げられています。飼い主の手からリードをもぎとるようにして引きずり、なんと我が家へ逃げ帰ってしまう。しまった、と途方に暮れたとき、小窓が開いていて顔があったという。犬を追いかけるべきときであるのに、ふと見上げたそうです。街灯の光は舗道を照らし、屋根の方向は闇です。その闇のなかに見たという。たぶん、もう少し経つと噂話が成熟して、まとまった町伝説が出来上がるのでしょう。